ゆるやかに舞う
「おねえちゃんも、てつだってくれる?」
少女は大きな目を輝かせて咲良にお願いをする。
たったひとりで城に忍び込んで、不安だったところに出会った優しそうな咲良に、甘えているのだろう。
咲良は少し困ったように周泰を見たが、黙って頷いてみせれば、ほっと安心したような顔をした。
風に吹かれ散っていった、綺麗な花弁だけを選んで、周泰も密かに手伝いをしてやる。
子供の願いを叶え傍に寄り添う咲良は、普段よりもずっと、大人びて見えた。
まるで、若い母親のような…、そう思ったとき、周泰は目をそらしてしまっていた。
この先、いくら望んでも、周泰には手に入れることが出来ない…幸せな光景だったのだ。
(…貴女はこれほど…心優しいというのに…)
どうして、自分が。
己の最も愛する人が、犠牲にならねばならない。
何度疑問を抱いたところで、答えは出ない。
ただ、咲良の決意は揺るぐことは無いし、周泰が止めることも出来ない。
だから、この時が…周泰が咲良を妻として扱える、最後の瞬間だった。
三人で協力すればすぐに、少女が持参した笊にはこんもりと紫色の山が出来た。
周泰が上から布を掛け、少しの風でも飛び散らないようにしてやれば、幼子は感激した様子で礼を言ってくる。
もうすっかり、怯えられることはなかった。
「おねえちゃん、これあげるね」
「えっ、手鞠を?でも、大切なものでしょう?生まれてくるあなたの妹か弟にあげた方が…」
「いいの!あたしがあそんであげるから。それに、おねえちゃんたちにややがうまれたら、これであそべるでしょう?」
咲良の表情が、一瞬固まった。
しかし彼女はすぐに笑みを浮かべ、ありがとうと少女の頭を撫でていた。
受け取った手鞠は、変わらずに鮮やかな色をしている。
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