ゆるやかに舞う



「幼平様…あの、宜しければ、少し外でお話をしませんか?」

「…ですが…お身体の具合が…」

「だ、大丈夫です!お気になさらないで…」


まだ空が明るくなるには早すぎる頃で、少しぐらいなら話をする時間もあるだろうが、周泰は散々無理をさせた咲良のことが心配だった。
だが、どうしてもと願われ、周泰は咲良を気遣いながら、外へと出ることにした。


朝の空気はひどく冷たく、しんと静まり返った空間は、やけに幻想的なものだった。
今が乱世だということを忘れてしまいそうだ。
咲良と並び、ゆっくりと城の周りを歩いていた周泰だが、急に手を掴まれ、足を止める。
やけに不安そうな顔をして、周泰を見上げる咲良がいた。


「幼平様……」


どうしたのか、と問う前に、周泰は少し離れた物影に数人の人間が隠れていることを感じ取った。
咲良は気配を察した訳では無かろうが、楽師である彼女はとても耳が良く、物音で人の存在に気付いたのだろう。
周泰が刀に手をかけると、咲良は慌てて止めようとする。
そして彼女は、物影に向かって、とても優しく語りかけた。
まるで子供を相手にするかのように。


「隠れていないで、お顔を見せてくださいますか?怖がらないで…」


すると、こちらに敵意が無いと伝わったのだろう、物影から顔を出したのは明るい色の着物を着たひとりの幼子であった。
城下に暮らしている子供なのか、大きな瞳を丸くし、咲良の背後に立ち尽くす周泰を見ている。
小さな子供にとって、体格の良い周泰はそれだけで恐怖を感じさせるものだろう。


「手鞠を持っていたでしょう?跳ねる音が聞こえたんですよ」


咲良がそう言うと、子供…頬がふっくらとした少女は驚いたように、懐から玉を取り出す。
鮮やかな色をした、美しい玉だった。


「おしろのふじのはなびらを、もらいにきたの」

「藤の花びらを?」

「もうすぐ、ややがうまれるの!だから…」


少女は嬉しそうな顔をして、咲良に一生懸命お話をした。
直に生まれてくる赤子のため、小牧山城の藤の花で染め物をしようと考え、朝早くなら人にも見つからないだろうと、こうして足を運んだそうだ。



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