ゆるやかに舞う



隣で静かな寝息をたてる愛しい人は、安心しきった顔で、周泰の腕の中におさまっている。
咲良の柔らかな身体には、傷一つ無かった。
周泰は同じ寝台に眠ることでその事実に気付いたのだが、それは彼女を守る者が傍にいたことを示している。
戦う力も無い、弱い咲良を守るため、力を尽くした者が居た。
島左近…周泰にとっては恋敵のような存在だった。

だが、咲良は左近のことを想ってはいなかった。
あなたが好きだと、その愛しい声で囁かれた時、周泰は確かに幸せに満たされた。
ずっと、傍に置いていたい。
本来ならば、何の困難もなく、その望みは叶っていたはずだった。


「ん……」

「…咲良…」

「ようへい、さま……?」


二人で過ごす夜は、驚くほどにあっという間のことだった。
これが最後になるとは、未だに信じられないでいた。

目を覚ました咲良は、寝ぼけ眼で周泰を見つめ、甘えたように寄り添ってくる。
周泰が彼女の髪や額に口付けを落とすと、咲良も真似をするかのように周泰の肌に唇を寄せる。
なんと愛らしい人だ、と言葉には出さずとも、周泰は強く咲良を抱き締めた。


「幼平様…もっと…」

「っ……」


どくん、と胸が高鳴る。
何を求められているのか、考えようとするだけで身体の奥が熱くなる。
昨晩、思うままに抱いたつもりだったが、愛しい咲良に望まれるならば、周泰は何度でも彼女を愛したいと思った。
唇を塞ごうとすると、視線を通わせた瞬間、やっと意識をはっきりとさせたらしい咲良は、急に顔を赤くして俯いてしまった。


「あっ、あの、……おはようございます…ごめんなさい…」

「…何故…謝られるのですか…?」

「ゆ、夢を…幼平様に、抱かれる夢を見ていて…私、恥ずかしいです…」


頬を真っ赤に染め、咲良は縮こまってしまう。
つまり、目覚めた後も、夢の続きと思い周泰に触れようとしていたのだ。


「…お可愛らしい…」

「可愛いなんて…!やめてください…だって、昨日あんなに…っ…」


夜のことを思い返し、咲良はますます恥じらってみせる。
可愛い、としか形容が出来ず、周泰はこのずっと年下の少女を、愛しい妻を優しく抱き寄せた。


 

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