幸せの源



「…咲良…」

「…ん…っ」


次に耳たぶを甘噛みされ、掠れた低い声が愛おしげに名を紡ぐ。
咲良は敏感に反応し、ぶるりと身を震わせた。
そんな咲良の反応を見た周泰はいつにも増して嬉しそうで、唇は滑るように首筋へ降りていく。
肌を吸い、いくつもの紅い花を咲かせた。
愛し合った証を、残そうとしているかのようだ。

…心から、貴方のことを想っている。
だが絶対に、離れたくないなどと、言ったりしない。
自分で選んだ道を自分で、否定してはならないのだ。
じわりと涙が滲むが、咲良は笑って見せた。


「私のことを、忘れないでくださいね…?幼平様…貴方のことが、誰よりも大好きです」

「っ……、」


当初は躊躇いがちだった好きの言葉も、今でははっきりと言えるようになった。
周泰も、咲良との別れを惜しみ、苦しげに顔を歪める。
だが、周泰は湧き上がる寂しさを、決して口にしたりはしなかった。
咲良を困らせると分かっていたから。
その代わり、こうして触れてくる。
態度で示そうとするのが周泰らしい。
そんな周泰が愛しくて、どうしようもなくて…咲良は彼の首に腕を絡め、身を寄せた。


「幼平様…幼平…さまっ…」

「…咲良…」

「お願いです…私を…愛してください…!」


これが、最後の夜になるはずだから。
私の身体に、心に、刻み込んでください。
貴方のあたたかな愛情を一心に受けていたことを、忘れたくないから。

切なげに名を呼び、触れてくれと訴える咲良を、周泰は何も言わずに強く抱き締めた。
一度涙が溢れてしまえば、止められない。
…最後に、するから。
だから今夜は、離さないで…

肌を合わせ、互いを求め合う二人が深く繋がるのは、それから間も無くのことだった。



END

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