幸せの源



「落涙、見事であった!さあ、私の酌を受けよ」

「そ、孫権様…」

「ちちうえ、だ!そなたは私の娘ではないか!」


真っ赤な顔で迫ってくる孫権は相当酒を飲んだようで、目尻も垂れ下がり、普段の厳格な様は何処にもうかがえない。
酔うと人一倍質の悪い孫権から逃れようと、もう何人も、逃げるように部屋を出ているのだ。
孫権の酌を咲良に断ることが出来るはずもなく、意を決し、酒に口を付けようとしたが、すかさず横から杯を奪われた。
ぐびぐひと酒を飲み干すのは、左近だった。


「孫権さん、そろそろお開きにしましょうか。お嬢さんにもきちんと休んでもらわないと…」

「左近、良い飲みっぷりだな!気に入った、さあ、もっと飲め!!」

「ちょ、勘弁してくださいよ…」


咲良を助けたはずの左近が、泥酔した孫権に捕まってしまう。
ごめんなさい、と小声で謝罪する咲良だが、左近は苦笑するばかりだった。
唯一彼を止められそうな孫策が腹を抱えて爆笑しているため、ある意味で悪夢の宴はなかなか終わらない。

孫権が酔い潰れるまで、一室に笑い声は絶えなかった。



━━━━━



その夜、咲良は周泰と同じ部屋に居た。
見て分かるほどに、周泰の具合が思わしくないようで、傍に居たのだ。
間違い無く…孫権に飲まされた酒のせいなのだろうが。


「大丈夫ですか…?もう一度、水を飲まれた方が…」

「…御心配無く…落ち着きましたので…」


そうは言うも、寝台に座る周泰は頭を抱え、とても苦しそうに見える。
周泰は酒に弱い方では無いが、久々に羽目を外してしまった孫権が酒を無理矢理口に流し込み、相当の量を飲んでしまったようだ。

周泰自身、孫権と酒を酌み交わすことは多くあるようだが、いつもは酔い潰れた主の世話をするため、酒の量も押さえているのだ。
だが今日の周泰は、自暴自棄になったと言う訳でもないが、孫権に勧められるままに酒をあおっていた。
きっと…どうにも出来ないやるせなさを押し隠そうと、無理をして酒を飲んでいたのだろう。

頭を抱え、深く溜め息を漏らす周泰がとても心配で、咲良は隣で見つめることしか出来なかったが…、彼はふいっと目を逸らし、聞き取れないほどの小さな声で、驚くべき問い掛けをする。


 

[ 393/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -