幸せの源



仲間たちは快く迎え入れてくれる。
ある人は、既に遠呂智を倒した後のこと考え、これからが大変だと苦笑して見せた。
またある人は、景気づけに落涙の笛を聴きたいと願い、耳を傾けてくれる。
最後まで一緒に頑張りましょうね、と笑ってくれた人が居る。

彼らの描く未来には、当たり前のように楽師の落涙が存在する。
誰もが、咲良の存在を違和感無く受け入れていた。
それは、奇跡に等しいことだ。
彼らと過ごした時間は、掛け替えの無い宝となり、咲良の記憶に残る。
決して…忘れたりしない。
忘れたくない。


「はっはっはっ!やはり落涙の音は美しいな!周泰、お前は幸せ者だ!さあ、もっと飲め!」

「…孫権様…御容赦を…」


酒が入ると人が変わる男、孫権。
明日には出陣を控えていると言うのに、誰彼構わず酒を飲ませようとする孫権は止められない。
酔っ払った主に絡まれ、困惑する周泰を、仲良く酒を酌み交わす孫堅、孫策や関羽が笑いながら眺めていた。
呉蜀が再び手を取り合う…夢のような現実が、ここには確かにあった。

ささやかな宴の場を訪ねた咲良は、久しぶりに"閉月"の舞いを彩る音曲を奏でた。
ふわふわと酒の匂いが香る空間は何だか懐かしく、楽師として働いていた頃のことを思い出した。
特に喜んでくれたのは、蘭華の店によく来店していたという周瑜だ。
思えば、落涙を初めて城に招いたのは他ならぬ周瑜である。


「関羽殿。落涙殿の音は素晴らしいでしょう?」

「ああ。落涙殿の旋律、初めてお聞きし申したが、これほど美しい音だとは思わなんだ。孫呉随一の楽師とは彼女のことであろう」


周瑜の言葉に深く頷く関羽だったが、真顔で絶賛されてしまい、咲良は頬を赤くしながら頭を下げる。
潼関で関平と本気の戦いを見せた関羽とは思えぬほど、その笑みは柔らかだった。
演奏を気に入って貰える喜びが、楽師の一番の幸せである。
舞い終えた貂蝉と目配せし、成功の喜びを分かち合っていたら、周泰に絡んでいた孫権が、今度は咲良の前に立ちはだかった。
嫌な予感がし、笑顔がひきつってしまう。


 

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