幸せの源



【――此処に来てから、僕はずっと自分がバグだと思っていたよ。今もそう思ってる。ごめんね。だけど咲良ちゃんは違う。咲良ちゃんは、きっとこの世界に必要な人だったから】


自身をバグだと卑下する悠生の言葉からは、やり切れない悲しみが感じ取られた。
自身のことを、要らない人間だと思っている?
本当は、存在するべきではなかった、世を乱すだけのバグだと。


(でもバグって、迷惑がられるだけのものじゃないよ。そんなこと、悠生の方が知っているはず)


ゲームをしていて、時には、バグに…予期せぬ存在に救われることもある。
悠生がバグだと言うのならば、きっと素敵な力を持った皆に受け入れられるバグだったのだろう。
そのことに早く、気付いてほしい。
そして、自信を持って、この世界を生き抜いてほしい。

一番最後の一文は、日本語でも中国語でもない、誰にも解読出来ないであろう英語で書かれていた。


(まい、でぃあしすたー…びーはっぴー…)


──大好きなお姉ちゃん。幸せになって。

頭の良い悠生も、英語は得意分野では無かったのだろう。
だからこんなにも短く、字も歪んでいるのだ。
旋律を伝える、という義務的な作業ではなく、愛しい姉に最後のメッセージをと…悠生の心からの想いが、字面からじんわりと伝わってきた。

これで、最後まで頑張れる。
いつまでも、咲良は悠生のことが大好きで、弟の幸せのためなら何だって出来る、単純すぎる姉なのだ。


「尚香様…ありがとうございました。これで、心置きなく笛を奏でることが出来ます」

「ねえ落涙、黄悠のことなんだけれど…彼、本当は…」

「良いんです。私には、会えないんですよね?あの子の気持ちは、よく分かっているつもりです。だから…、この笛で応えたいと思います」


よく、涙を流さなかったと…自分を褒めてあげたいぐらいだ。
悠生からの手紙を、涙で汚してしまいたくなかったから、必死に耐えたのだ。

手紙を届けてくれた尚香には、何度も礼を言い、彼女たちとはそこで別れた。
趙雲を待つ理由も無くなったため、咲良はやるべきことを果たそうと、貂蝉と共に次の目的地へ向かう。
戦いに備えて準備をしている将達の元を訪ね、挨拶周りをしたかったのだ。


(皆のことを、ちゃんと目に焼き付けておきたいから…)


 

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