幸せの源
「趙雲殿は、悠生殿のことを話したかったのだと思う…貴女から悠生殿を引き離し、蜀の国で暮らすことを許してほしいと。貴女が悠生殿の唯一の肉親なのだとしたら、それこそ趙雲殿は、思い悩んでいたはず」
「……、」
「だけど趙雲殿は、誰より悠生殿を大切にしているから、安心して」
星彩は趙雲の代弁役をつとめ、咲良は彼女の言葉を趙雲の言葉として受け止めた。
悠生の居場所は、蜀にしか無い。
そして、彼らは悠生を慈しみ、身も心も守ろうとしてくれている。
趙雲の行動が、それを証明してくれた。
「悠生のことを、宜しくお願いします。…と、趙雲さんに伝えていただきたいのですが…」
「ええ、分かったわ」
趙雲は信頼に値する男だから、大丈夫だ。
悠生も、趙雲のことを一番に好いていた。
彼が現実の存在となっても、悠生は故郷より、趙雲たちの隣に居ることを選んだ。
自らの意志で、決めたのだ。
そこが、幸せを得られる場所なのだと信じている。
悠生の未来は何も、心配することは無いのだ。
「…ねえ落涙、この流れで言うのは申し訳ないんだけれど…黄悠から貴女宛てに、文を預かっているの」
「えっ…」
「だけど…ごめんなさい。左近が勝手に広げて、仕舞には皆に見せてしまって…」
まさか、悠生からの手紙があるとは、予想もしなかった。
尚香が懐から取り出した書状は、丁寧に折り畳んではあるが、既に内容は知られてしまったらしい。
それは、自分たちに都合の悪いことを書かれていては困るから…などと適当な理由を付け、日本語が読めない三国の人々に代わり、左近が進んで手紙を開いたのだろうが…
「久遠劫の旋律って言ったかしら…その詩について書かれていたそうよ。意訳や、読み方を丁寧に纏められていたって。落涙のために、書いてくれたのよ」
「私のために……、」
「左近が別紙に書き写して、皆に詩を教えると言っていたわ。遠呂智のために大合唱をするって、策兄さまの提案を叶えようとしているの」
手紙を受け取った咲良は、どきどきする胸を落ち着かせながら、目を通した。
…確かに、ずっと求めていた歌について纏められている。
中国語と日本語の歌詞、中国語の発音の仕方はカタカナで、そして大意…、子守歌の効果を発動するために必要な要素が、やけに綺麗な字で書き込まれていた。
だが、それだけではない。
短いが、咲良に宛てられたメッセージが綴られている。
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