幸せの源
「でも、呂布さんは貂蝉さんを離してくれそうにありませんよね…」
「ふふ。ずっと小春様のお傍に居ることは叶いませんが、文を書き、何度も邸をお訪ねしましょう。奉先様もきっと、許してくださいます」
「ありがとうございます…貂蝉さん」
不安の数を、減らしていかなくては。
出来るだけ多くの人と顔を合わせ、言葉を交わして。
幸せで、楽しい思い出だけが残るように。
「落涙!こんなところに居たのね」
「尚香様!」
咲良の姿を見付け、笑みを浮かべながら駆け足で近付いてきたのは尚香で、その後ろには蜀の将・星彩が続いていた。
対照的な二人だが、尚香が蜀に居た頃から仲が良いのだろう。
闇夜のような黒い瞳はじっと咲良を見つめていたが、その唇は微動だにしない。
だが、貂蝉が静かに会釈をすると、星彩も同じように頭を下げた。
「尚香様、会談は…上手くいきましたか?」
「ええ!策兄さまがちゃんと纏めてくれたわ。これで呉蜀の仲は元通りよ」
「そうでしたか…良かったです」
関羽と呂蒙が衝突する、最悪の事態が起こる可能性はほとんど無かったが、咲良はやっと安心することが出来た。
尚香は彼らと同じ場に立ち、全てを見届けたようだ。
再び蜀の仲間と手を取り合える…尚香にとっては、奇跡のような出来事だっただろう。
「あの…趙雲さんって、何処にいらっしゃるかご存知ですか?お話したいことがあったのですが…」
「趙雲?まだ黄悠と一緒に居るんじゃないかしら」
「え!?そんな…またすれ違うなんて…」
まさか、悠生と居るとは…、自分をスルーして弟のところへ行く趙雲を悪くは思わないが、少々落ち込んでしまう。
がっくりする咲良を見て、すかさず声をかけたのは未だ言葉を交わしたことが無い星彩だった。
「何を話したかったの?趙雲殿に」
「え、あの…趙雲さんの方が、私に話があると仰っていたので…」
一見すれば冷たい雰囲気の女性だが、ゲームをプレイした咲良は、時折見せる星彩の可愛らしさをよく知っている。
どぎまぎしながら答えた咲良だが、星彩は暫し思案し…、思い当たることがあったのだろう、淡々と口にし始めた。
[ 389/421 ]
[←] [→]
[戻]
[栞を挟む]