幸せの源



陽もすっかり落ちた頃、小牧山城に入城するなり、趙雲や関羽は孫策を交えて孫権と会談することとなり、一室に閉じこもってしまった。

先に到着していた尚香達が出迎えてくれるも、彼女もまた忙しなく駆け回り、蜀の将兵達を迎え入れている。
孫策が仲介人であるから、一触即発することは有り得ないが、やはり不安である。
話が纏まれば、明日にも古志城へ向けて出陣することになるのだ。
今、この小牧山城の何処かに居るはずの、悠生も一緒に…

咲良は貂蝉と一緒に、重大な会談が終わるのを待っていた。
趙雲が話したいことがある、と言っておきながら忙しさのあまりすっかり後回しにされているので、此方から尋ねようと思ったのだ。


「ごめんなさい、貂蝉さん…お付き合いさせてしまって…」

「いいえ。咲良様と共にあるのですから、苦ではありません」


にっこりと微笑む貂蝉の美しさには慣れたとは思っていたが、たまらなくて意味もなく赤面する。
もうすぐ、別れの日が訪れる。
だが、あまり考えていたくなくて、悲しい雰囲気を避けるため、貂蝉もこうして笑顔を見せてくれるのだ。


「貂蝉さん…ひとつ、お願いを聞いてくださいませんか?」

「はい。何でしょうか」

「私が居なくなった後のことなんですが…少しで良いんです。小春様のことを気にかけていただきたいのです…」


本当なら、悠生のことも頼みたいところだが、それは、趙雲が引き受けてくれるはずだから、胸の内に留めておく。
問題は、仙女の候補となった小春だ。
女禍の話によると、小春は五年以内に仙界へ連れていかれてしまうのだ。
せめて、それまでの短い間、小春が平穏に暮らしてくれたら良いが…咲良は傍で見守ることが出来ない。
だから、貂蝉にお願いをするしかないのだ。
女禍の存在を誰よりも知る貂蝉にしか、このようなことは頼めない。


「やはり、女禍様は小春様を…?」

「貂蝉さんも気付いていましたか?小春様は、ずっと苦しそうな顔をしていました。まだ幼いのに…私が代わってあげられたら良かったのですが…」

「…いいえ、それは私が負うべき役目でした。ですが、女禍様の御心は私に幸せを与えてくださったのです。感謝に応えるために、私に出来ることは、小春様を影で支えること…」


小春に残された時間は僅かである。
彼女が陸遜の妻としての役目を全う出来るよう、咲良には祈ることしか出来ない。
残念だが、陸遜と交わした二つ目の約束を、守れそうにない。
陸遜と小春の祝言で、笛を奏でる…、幸せの生まれる場所に、私も立っていたかった。


 

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