変わり行く世界
「望むところだぜ!!権もきっと良い返事をくれるさ」
「孫策殿…かたじけない」
「今は、考えないんだろ?さあ、皆で遠呂智をぶっ潰そうぜ!!」
呉蜀の和解…、史実には絶対に有り得ない出来事ではあるが、今目にした光景全てが現実である。
歴史的な瞬間に立ち会った咲良は、強い想いを抱いた。
何故か全く、負ける気がしないのだ。
同じ志を持つ将を集め、ここまで反乱軍を大きく成長させたのは、孫策である。
話は一段落し、次に諸葛亮は、横目で探るように咲良を見た。
幾重もの壁に覆われた彼の心は、どう頑張っても知ることが出来ない。
感情すら読み取れない澄んだ瞳に、じっと見られていることに違和感を覚えるも、諸葛亮は咲良の動揺など無視し、ゆっくりと語りかけてくる。
「ところで…落涙殿。一つお聞きしても宜しいでしょうか」
「な、何でしょうか…?」
「妲己は、なりふり構わず落涙殿を捕らえようとしておりました。悠生殿をあらゆる戦場に連れて行き、貴女を誘き出そうとしていたのです」
「そうだったんですか!?私…戦場であの子に会ったことなんか、一度も…」
咲良はさっと青ざめ、唇を戦慄かせる。
妲己に付き従っていた諸葛亮は、同じく遠呂智軍に従わされていた悠生のこともよく目にしていたようだ。
姉を捕らえるために、弟を利用する。
たまたま、戦場で悠生の名を聞く機会はなかったが、もし本当に顔を合わせていたら、遠呂智軍から救出しようと自ら妲己に突っ込んでいたかもしれない。
「単刀直入にお聞きします。貴女は何故、妲己に狙われていたのですか?」
「それは…、私が、遠呂智を眠らせる旋律を、奏でることが出来るからです」
「…そうでしたか。妲己が貴女に拘っていたのは、その力を恐れてのことだったのですね」
蜀の人々は、落涙が担う役割を知らなかった。
遠呂智を打ち倒すのではなく、眠らせる。
悪く言えば、その命を救うことになるのだ。
誤解される前に、真実を語ろう。
そうすれば皆も、協力してくれるはずだ。
「もし、遠呂智が死んでしまったら、遠呂智の降臨によって甦った皆さんも…消えてしまうんです。だから私が笛を吹かなくては…」
「本当かよ!?そりゃあごめんだぜ!」
張飛が盛大に唾を飛ばして叫び声をあげる中、孫策だけは顔をしかめていた。
このままでは咲良を死なせてしまうかもしれないと、焦っているのだろう。
心配してくれるのは嬉しいが、あまり気に病まないでほしい。
「しかしながら、未だ旋律は完成していない…、孫策、いい加減に思い出してくれないか?」
「周瑜…無茶言うなよ。俺だって…唄えるもんなら、自分から唄ってるぜ」
唇を尖らせ、孫策は悔しそうに呟く。
記憶は確かなものではなく、思いだそうとする毎に曖昧になってぼやけていくのだ。
咲良も、孫策と同じである。
好きな曲なのだから、ちゃんと歌詞を考えながら聴いておけば良かった…と、何度後悔したことか。
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