変わり行く世界



「腹立つわね…そんなに落涙さんが大事!?ただの人間の小娘に何が出来るっていうのよ!」

「ふん。咲良を大事にしているのは貂蝉だ。俺は咲良に救われた。それだけだ」

「馬鹿じゃないの!奉先さん、落涙さんが遠呂智様を眠らせたら、貴方が追い掛ける人は居なくなるのよ!?最強である遠呂智様を失っても良いわけ!?」

「はっ、構うものか。遠呂智と戦わずして、この俺こそが最強という証になるのだからな!ゆえに妲己、天守への攻撃は許さん」


以前の呂布ならば、他の者の手によって遠呂智が倒されると知っただけで怒り狂っていただろう。
休む間もなく暴言を浴びせ続ける妲己を相手にしても、呂布は至って冷静に受け答える。
思い通りに動かない、呂布の態度に逆上した妲己は、白い顔を真っ赤にして、背後に立つ諸葛亮に怒鳴りつけた。


「諸葛亮さん!早く、貴方の策でこの裏切り者を痛めつけちゃってよ!」

「妲己様、それは流石に…」

「つべこべ言わないで!…もしかして諸葛亮さんまで私を舐めてるの!?信じられない!」


唐突な呂布の裏切りを受け、疑心暗鬼に陥っていた妲己は地団太を踏み、一向に収まらぬ怒りに唇を震わせた。
そしてあろうことか、彼女は妖しげににやりと笑み、誰もが予想しなかった発言で、さらに場を混乱に陥れたのだ。


「良いわ、諸葛亮さん。私に抗うつもりなら、みんなで仲良くかかってきなさいよ。古志城で待っているわ。あなた達の大事な劉備さんと一緒に歓迎するわよ?最後はみんな纏めて血祭りに上げて、世を絶望に追いやってあげる!」


劉備は、古志城に居る。
頭に血が上った妲己は自ら、蜀の将が血眼になって捜していた劉備の居場所を高らかに宣言した。
人間相手に無謀な戦いを挑み、最終的に、逆らうものは皆殺しにすると。
これには、妲己が隙を見せる時をじっと待ち続けていた諸葛亮も驚いたようで、とっとと逃げ出す妲己を追おうともしなかった。
彼女に着いていく遠呂智軍の兵は、驚くほどに少数であった。


「呂布…俺達の味方になってくれるのかよ」


妲己を撤退させた張本人・呂布に、最初に声をかけたのは孫策だった。
だが、呂布が素直に応じるはずもなく、チッと舌打ちをし、見定めるかのように周囲に視線を巡らす。
呉蜀の勇猛な将を前に、彼は何を思うのか。


「屑が。俺は誰にも従わぬ」

「では何故、貴方はわざわざ此の地へ?何かしら、妲己に不満を持っていたからではありませんか?やはり、妲己が口にした"落涙殿"を守るために?」


諸葛亮の探るような問いに、呂布は答えようとしない。
代わりに、懐に閉まっていた、丸めた地図を乱暴な手つきで投げつける。
それには、古志城への道と、城郭図が記されていた。


「俺は最強の武を手に入れる。俺を倒し、遠呂智に挑め!!」


言っていることはいつもの呂布と変わらぬが、反乱軍は確かに、呂布の心意気を感じ取ったことだろう。
兵卒達が恐れおののく中、赤兎馬に跨った呂布は、最後に天守を見上げてすっと目を細めた。
咲良も初めて目にした、鬼神の優しげな瞳。
離れ離れとなっても、二人の心は深く通じ合っている。
貂蝉を見つめているのだ、と咲良にはすぐ分かった。
咲良の記憶よりずっと、幸せそうに微笑む貂蝉が居たから。


 

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