変わり行く世界



「ったく、滅茶苦茶な女だな!」


孫市は柱に身を隠しながらも鉄砲を撃ち続け、次々に雑兵の胸を貫いていく。
それでも敵の数は減らず、キリがない。
妲己が全ての力を結集させ、落涙を滅ぼそうとしている…恐ろしい執念だった。


(どうしよう…こわい…!)


妲己自身をどうにかしなければ、この攻撃は止まないのだ。
皆を、貂蝉を巻き込みたくない…そう思っても、恐怖で体が動かず、彼女に守られるしかない。

もう、駄目かもしれない…、最悪の結末を予感した時、予告もなく砲撃が止んだのだ。
そして、再び静寂に包まれる江戸城。
雪の降り積もる音さえ聞こえてきそうだった。


「おい、嘘だろ…!?なんだってあいつが…」


孫市の驚きの理由を、全く予想出来なかった。
咲良は恐る恐る立ち上がり、外を覗く。
真っ白な雪に覆われた地の向こうに、鮮やかな朱色の馬を見た。
咲良の傍らに立った貂蝉は、両手で口元を押さえ、瞳を輝かせるのだった。


「ああ、奉先様…!来てくださったのですね…」

「え…呂布さん!?どうして…」


妲己に従う遠呂智兵の大軍に飛び込む赤兎馬。
黒の鎧を纏った呂布が、雪の上に降り立つ。
貂蝉が最も愛した男、呂布が、突然其処に現れたのだった。
孫策も趙雲も、呆然と立ち尽くしている。
ゲームにも有り得なかった展開に、咲良は緊張してごくりと唾を呑むが、以前、遠呂智軍から脱走した貂蝉が語った通り、呂布は敵としてやって来た訳ではないのだ。
現に彼は、遠呂智軍を蹴散らしている。
呂布は無抵抗な妲己の胸倉を掴むと、低い声で脅しをかけた。


「妲己、今すぐ砲撃をやめさせろ」

「どういうこと?奉先さん」

「天守には貂蝉が居る。俺の女に傷を負わせることは許さん」

「ふうん?脱走した彼女を庇うんだ?…だけど、目的は貂蝉さんだけじゃ無いんでしょ?」


妲己は呂布を前にしても狼狽えはせず、己の怒りを知らしめるように睨み返す。
裏切り者、とでも言いたげである。
呂布の真意に気付いた妲己は、妖玉を操って地面に無数の穴を開けると、反動で呂布の手が弛んだ隙に飛び出した。


 

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