変わり行く世界



「もし咲良様に手を出したら、私は貴方様が相手でも容赦致しません」

「冗談!いくら俺でも、時と場は弁えるさ」


女の敵、雑賀孫市。
これでは、貂蝉の警戒は解けそうにない。

様々な不安を抱えながらも階段を探し、咲良達は上へ上へと上っていく。
そのうち、壁の向こう側から聞こえる激しい音により、反乱軍が妲己と衝突したことを知る。
その衝撃は想像以上で、流れ矢や球が天守閣の壁にもぶつかり、ぐらぐらと揺れるのだ。
思わず、耳を塞ぎたくなる。
人々が散り行く姿を、想像もしたくない。


(妲己は、私の音を聞きつけて本丸まで来たんでしょう…?皆が傷付くのは私のせいでもあるのに…私は何も…)


それを承知の上で、孫策は咲良を保護してくれたのだ。
戦うことの出来ない咲良は、最後の最後までお荷物で居続けることは間違いない。
だが孫策は、迷惑などとは思っていないだろう、彼は優しい男だ。
それが心苦しいと感じるならば、きちんと役目を果たし、恩を返せば良いのだ。
その時は、直に訪れる。
もうすぐ、全てが終わるのだから。


「咲良様、きっと大丈夫です。孫策様は天に選ばれた光なのですから」

「…そうですよね。私は…今まで何度も孫策様に救われました。だから、最後まで孫策様を信じます」


何としても、希望の光を守らなくてはならない。
貂蝉の励ましに応えようと、咲良は笑って見せた。
子守唄が孫策の歌とされたのも、咲良が奏者となったのも、何かしら深い縁があったのだろう。
光を守ることは、世界を守ることに繋がる。
皆が必死に戦っているのに、自分だけが弱気になってはいけないと、咲良は自身を奮い立たせようとつとめた。


「お二人さん、この上が最上階みたいだぜ」


通路を阻んでいた氷を蹴り壊し、孫市は次の道を示した。
光の射し込むその先が、天守閣の天辺。
庶民が立ち入ることなど許されるはずの無い、権威ある人物だけに許された空間だ。


「見てみろよ、妲己の奴が丸見えだ」


孫市に言われた通り、廻り縁に立った咲良が恐る恐る外を見ると、なだらかな屋根瓦のずっと下、地上には、滑るように舞い、敵を蹴散らす鮮やかな色…妲己の姿があった。
足軽や兵卒には到底手に負えず、彼女に近付いただけで、見る見るうちに人が弾き飛ばされていくのだ。
孫策や趙雲が応戦するも、相手はだ妲己だけではなく、蜀の将達や、あの諸葛亮も加わっているため、一筋縄ではいかないだろう。

咲良が固唾を呑んで地上を見守っていると、背後でかちゃかちゃと音が聞こえた。
口笛を吹きながら、孫市が弾込めをしていたのだ。


 

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