変わり行く世界



遠呂智軍の総大将である妲己は目まぐるしい速さで江戸城本丸を目指していた。
諸葛亮が用意した伏兵をも引っ張りだし、全兵力を上げて攻撃を仕掛けるつもりだ。
その間にも、天守内で立ち往生していた反乱軍は大方が脱出し、合流した地点で体勢を立て直す。
妲己を迎え撃つ準備は万全…とは言えないが、互角以上の戦いを見せてくれることだろう。


(あと一回、笛を吹いたら気絶するかも…)


かつてないほどに、咲良は疲れきっていた。
未だ口の中にじんわりと残る血の味が不快で、血を吐く苦しさを思えば、同じことは繰り返したくないと思うのが普通だろう。

孫策は趙雲と協力して兵を前線に押し出し、妲己を迎え撃てるよう体勢を整え始める。
だが、妲己に命を狙われている咲良をこれ以上人目に触れさせてはならないと、身を案じた貂蝉は、戦線を離脱させるよう孫策に申し出てくれたが、素直に甘える訳にもいかない。
大丈夫だとは言ってみるものの、此処に残ったとしても、今にも途切れそうな気力を考えると、再び笛を奏でることは出来そうになかった。


「私、ちゃんと、最後まで見届けたいです。皆さんのように戦えませんが…同じ場所に立っていたいんです。孫策様…」

「そうは言ってもな…お前には随分救われたぜ?もう、無茶はさせられねえよ。此処にいたら、いやが上にも巻き込んじまう」

「ちょっと提案なんだが、天守の最上階へ上ってもらい、戦線を見守ってもらうってのはどうだ?幸い、火災の被害は思ったよりも少ないようだぜ」

「何だ?お前は…」

「俺は雑賀孫市。美しい女性をお守りするなんて重要な任務、適役は俺以外に有り得ないだろ?」


話を割って名乗り出たのは、先程、孫策らを狙う敵を見事に撃ち抜いた雑賀孫市である。
崩壊しかけた天守に向かえば良いなどと、孫市の提案は無謀とも思えるが、咲良の望みを叶えるには最善の方法である。
万が一、地上から矢や鉄砲を撃たれたとして、この高さと距離では、命中する確率は限り無く低い。
天下一とも言えよう、江戸城天守閣は他に無い、立派に造られている。
あれほどの炎に包まれた後でも、ほとんど変わらずに絢爛な姿を保っていられるぐらいだ。

孫市の言う通り、咲良がこっそりと身を隠して、全てを見届けるには絶好の場所なのである。
だが、そこに辿り着くまで、危険が無いとは言い切れない。
天守内に、逃げ遅れた敵兵が潜んでいる可能性もある。


 

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