この信念の上に



「おい咲良、お前…死ぬ気だったのか?遠呂智を眠らせて、自分は居なくなるつもりだったのかよ!?」

「ご…ごめんなさい。今は、何も聞かないでください。私のことは構わずに…」

「そういう訳にもいかねえだろうが!!」


感情的になった孫策の大声を浴びせられ、咲良はびくりと肩を震わせた。
ここまで声を荒げる孫策は珍しい。
彼の叫びはとても苦しげで、悲しみや憐れみが入り交じっているように思えた。
咲良が一人で抱え込み…誰にも相談をしなかったことを、嘆いているのだろうか。
貂蝉が守るように抱き寄せてくれたが、それで彼らの追求から逃れられる訳ではない。


「自分を犠牲にしたって、何も良いこと無いだろうが…咲良、お前が死んだら、小春が泣くだろ…周泰だって…」

「それでも…私が逃げたら、私が居なくなることよりも、悲しいことが起きてしまいます。私は、定めを嘆いたりはしません。大好きな人達が生きるこの世界を、未来を、守ることが出来るんですから!」


皆の希望の光である貴方が消えてしまう、とは言えなかったが、咲良は孫策の悲しみを打ち消すかのように、微笑んで見せた。
これは、私が自分で決めたこと。
私の幸せは、この世界にしか無いから。
ぴんと張り詰めた空気の中、咲良の鮮やかな笑顔は、反論も意見も出来なくなるほどの、強い衝撃を与えることとなった。

咲良はただひとり、事態が呑み込めていないであろう趙雲に向き直った。
彼は過去、戦場から命懸けで赤子を救い出している。
三国志きっての英雄であり、きっと…、心優しい人だ。
この世界に迷い込んだ悠生のことも、気にかけてくれたはずだろう。


「趙雲さん。どうか、弟を…悠生のことをお願いします。私はあの子が幸せに生きてくれれば、それだけで…」

「咲良殿…貴女が、悠生殿の姉君。本当に、よく似ておられる。ですが、貴女と彼はまるで違う。違ってもらわねば…私が困る」


似ているのに、違う?
関平には、姿形も中身も、泣き顔までそっくりだと言われたのに。
繊細で、複雑な感情を語る趙雲の表情は、やはりどこか寂しそうなものだった。
それが離れ離れとなった悠生を思ってのことであると解釈した咲良は、目に焼き付けるように趙雲の瞳を見つめた。


 

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