この信念の上に



「っ…う…!」

「咲良様!?」


すうっと、全身から血の気が引いていく。
貧血に立ち眩んだ咲良だったが、貂蝉に抱き止められ、転倒することはなかった。
しかし、ごほごほと咳が止まらず…瞳に涙を滲ませ、噎せ続けた咲良は、手のひらに赤いものを吐き出してしまった。
口いっぱいに、鉄の味が広がっている。


(うそっ、血…!?)


まさかとは思ったが…、手に受け止めたぬるつく液体は、確かに血であった。
咲良はとっさに手のひらを握り、皆に血を吐いた事実を隠し通そうとするが、赤に濡れた唇や、血の匂いを隠しきれるはずがなかった。


「咲良様…これは…どういうことですか…!?咲良様が病を患ったなどと、蘭華様にも聞かされておりません…」

「貂蝉さん…違うんです…!病だなんて…」


病人のように吐血する咲良の姿を見た貂蝉は、咲良以上に青ざめて、唇を戦慄かせた。
信じられないのは咲良も同じである。
流石に、ここまでは予測出来なかった。
久遠劫の旋律を奏でたら、この世界での死をむかえると聞かされてから、複雑な想いであれ…覚悟を決めていたつもりだった。
だが、最終的には故郷へ帰してもらえるからと、死への実感が湧かなかったのもまた事実だ。

子守歌を奏でたら、命を失う。
それ以前に、周囲に止められたにもかかわらず、望むままに力を多用したために、咲良の身体は気が付かないところで弱っていったのだ。
死が、目に見えるところまで近づいていた。


「落涙殿…、以前、大坂城で、貴女は笛を吹いて体調を崩されたことがあったな。それに、左近は貴女が笛を奏でようとすると、いつも顔をしかめていた。左近はこのことを知っていたのだろうか。偶然ではなく、貴女が身を削って旋律を奏でていることを…」

「周瑜様…私は…」


違う、とは言えなかった。
周瑜の推測は、ほとんどが正解に等しい。
ただ、常に身をすり減らしているのではない。
術を使うときだけなのだ、苦しい想いをするのは。
…だから心配は要らないと、そう、伝えたいのに。
口を開けば余計なことを言ってしまいそうで、咲良は大きく首を横に振った。


 

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