至福の息吹



「えー…、これからのことなんですが、実は先程、こんなものが届けられたんですよ」

「何だ左近、文か?」

「それがですね…孫策さん宛てに届けられた、果たし状なんですよ。前田慶次からね」


前田慶次、そして、孫策への果たし状。
思い浮かんだのは、呂蒙と陣太鼓、大坂湾の戦いだ。
相当面倒くさい戦いだった、とだけ記憶している。


「是非、孫呉の将と手合わせをしたいと。返書なら俺が書きますが、どうします?」

「どうするったってなぁ…前田慶次って合肥で戦った見るからに豪傑って男だろ?あいつの武には興味があるし、誘いに応えてやりたいが…」


孫策とよく似た男、と左近は評していた。
本来なら、今すぐ慶次と手合わせをしに大坂湾へ向かいたいはずだろう。
上手く行けば、慶次を味方に引き込めるかもしれないのだから。
だが実際、慶次に構っている余裕は無い。
戦力が整い、士気も高い今だからこそ、妲己や遠呂智に決戦を挑むべきなのだ。


「なあ左近、呂蒙も、すまねえが、慶次に会いに行ってくれるか?」

「おっと、妲己を後回しにするんですかい?呂蒙さん、あんたはどう思います?」

「ううむ…孫策殿、慶次を仲間にするおつもりで?確かに合肥で戦った前田慶次の強さには圧倒されましたが、味方に引き込むには骨が折れそうですな」


左近と呂蒙、頭の良い二人は、孫策の意見を否定はせずとも、すぐに頷くことは出来ずに居た。
慶次の力が孫呉のものとなれば百人力だろうが、そのために兵が疲弊しては意味がない。
高まった士気を下げてまで、勝算の低い戦に赴く必要は無いのだ。


「いや、実はな…大坂城に乗り込む前、虎牢関で蜀の奴らの世話になったんだ。その貸しを返しに行かなきゃならねえ」


大坂城に孫堅が捕らわれていた同時期、江戸城に劉備が捕らわれているとの噂が流れていた。
左近と落ち合うまでに時間がかかったのも、孫策は遠呂智軍の追っ手に苦しんでいたからである。
そこで、窮地を救ったのは趙雲率いる蜀軍であったのだ。
孫策は趙雲の善意に感謝をし、共闘を約束していたという。


「これは俺と周瑜に任せてくれ。だから、お前たちは皆で慶次の希望に応えてやってくれないか?お前ら全員が向かえば、俺が居なくても満足してくれるだろ」

「ま、そういうことなら仕方がありませんね。では、俺達は大坂湾へ、孫策さん達は江戸城へ向かうということで」

「ああ、だが大喬と小春、それと…咲良と貂蝉は俺が連れていく。良いよな?」


妻子と、敵に狙われた楽師と呉軍にとっては新参者の舞姫。
孫策の気紛れか、考えあってのことか…四人の名が挙げられた。
自然と、自分も大坂湾に向かうことになると思っていた咲良は、孫策の言葉に少し驚いた。


 

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