天が流す一粒
美しい天使と化した小春が生み出した光は、円を描くようにして周囲に広がっていく。
そして共鳴したかのように、ぱああっ!と女禍の光の盾がいっそう輝きを増し、狼狽する妲己を押し返した。
「なっ…何なのよ!いったい……!!」
「ふふ、妲己、知らなかったのか?小春も私の娘だ」
「…分かったわよ!今日は私の負け!!だけどね、あなた達が束になったって遠呂智様には敵いっこないんだから!!」
相当に動揺しているのか、妲己は捨て台詞もそこそこに、尻尾を巻いて逃げ出した。
残されたのは静寂と、藤の香りだけ。
地に突っ伏した孫策達は、ただ眠っているだけのようだ。
女禍は妲己の後を追おうとはしなかった。
代わりに、苦しげに肩で息をする小春の傍に膝を突くと、柔らかい笑みを浮かべ、何も言わずに彼女の髪を撫でた。
大役を果たした我が子を労っているかのようだ。
「この娘は、小覇王の血を引いている。仙人としての素質は十分だ」
「女禍さん…それって…まさか、小春様を、新しい跡継ぎに選んだってことですか?」
「咲良、お前まで私を咎めるか?悠久は…お前の弟・悠生は、小春を連れ行くことを決して認めようとしなかった」
だから小春は、陸遜のことで深く悩み、あんなにも思い詰めていたのかと、咲良はようやく彼女の影のあった表情の真意を知った。
小春が貂蝉に代わる仙女の候補となった事実を、悠生さえ知っていたと言うのだ。
小春の持つ凄まじい力を目の当たりにしてしまえば、女禍がこれまで小春に何をしてきたか、容易に想像出来た。
孫策の血を引くゆえに秘められた力が、女禍の手により引き出されたのではないか。
だが、小春を仙人にするなど…、その先の運命を思えば、素直に受け入れることなど出来そうに無い。
陸遜との仲を引き裂いてまで、仙人になることで、小春自身にどのような利があると言うのだろうか。
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