天が流す一粒



「良い気味。綺麗な顔が台無しね!」


完成された美しい顔に傷を付けた妲己は満足そうに笑い、風のように宙に舞った。
そして、彼女の両手に出現した妖玉は、まるで闇夜のように暗い色をし、鈍く輝いていた。


「皆仲良く、楽にしてあげるわ!」

「妲己……!まだ罪を重ねる気か!!」

「…黙ってよ!もう聴きたくないのよ、仙人の声なんか…!」


咲良は、胸がずきりと痛むのを感じた。
妲己の声が、いつまでも頭に響く。
初めて耳にする、悲痛な叫びだったのだ。

妲己の妖玉が細かく砕け、一つ一つが凶器の雨となり、地上に叩き付けられる。
あの欠片に触れたら、体に穴が空くだろう。
間髪入れずに、女禍が盾を突き出し、光の防御壁で攻撃を弾き返すが、圧倒的に妲己の力が勝っていた。
ばらばらと周囲に飛び散った欠片は、咲良の首に巻き付いた太公望の羽衣が瞬時に広がり、皆の盾となってくれた。
だが、妲己の憎悪を目の当たりにした咲良は、このままでは攻撃が突き抜けてしまうと、直感した。


(駄目…堪えられないよ…!!)


女禍も、羽衣も、いつまで堪えられる分からない。
ピストルを連射したかのような轟音が、今も真上で鳴り続けているのだ。
妲己は…本気なのだ。
此処で女禍と咲良を殺し、己の肉体への負担や、影響など省みず、全力で向かってきている。
妲己の中に眠る憎悪の心を浴びせられているようで、ただただ、恐ろしかった。

皆は地に伏せ、孫策は怯える小春を抱き締めていたが、このままでは体中に穴が空けられてしまう。


「やめて…」

「小春…大丈夫だぜ!お前だけは死なせねえ!!」

「父上…!わたし、わたしは……!!」


小春の悲痛な叫び声が、突如として巻き起こった突風にに呑み込まれる。
そして、生まれた光は。
太陽よりも神々しく、月よりも気高い輝き。
あまりもの眩しさに、視界は真っ白になるが、咲良には全てが見えていた。
孫策の腕の中に居る小春の背に、柔らかな白い羽が見えたのだ。


(小春様!?いったい何が起きたの…!?)


今の小春の姿は、天使そのものだった。
孫策や周瑜、周囲の人々は光に呑まれ、ぱたりと力を失い、地に伏せていく。
貂蝉も、皆と同じだった。
ふらりと倒れそうになる貂蝉の細い身体を、慌てて支えた咲良だが、どうやら何ともないのは自分と女禍、そして妲己だけなのだ。


 

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