天が流す一粒



「ふむ、我々の出る幕はなさそうだ。思いの外、人の子の力は侮れんな、咲良」

「孫策様のお力ですよ。孫策様の元に、孫呉の力が集まったから…」

「そうか、あの、小覇王の力か…、」


役目を果たした咲良達は一足先に安全な場所へ連れられ、遠くから経過を見守っていたのだが、驚くべき早さで遠呂智軍は崩れていく。
孫策達が束になってかかれば、流石の妲己も抵抗することすら困難な様子だ。
女禍は目を細め、妲己と対峙する孫策らを見物していたが、ふとした瞬間に宙へ舞うと、身を翻し、敵中へと飛び込んでいった。


「女禍さん!?」


咲良が彼女の名を叫んでから、その後の出来事は、ほんの一瞬のことであった。
女禍が何やら呪文を呟くと、孤軍奮闘していた妲己の手足が、光の輪によって拘束される。
予告も無く戦場へ乱入した女禍に、妲己だけではなく、呉軍の仲間達も驚きを露わにした。


「ちょっと!私を捕まえてどうするつもり!?」

「はて、いつの間にか鬼役が逆転したようだな。鬼ごっこは仕舞いか?」

「やめてよ、ほんと腹立つんだけど!」


妲己が捕らわれたことにより、結束力の無い遠呂智軍の兵は揃って逃げ出してしまう。
最早、落涙の捕縛など彼らの頭には無い。

芋虫のように地に転がる妲己を、女禍は上から見下ろしている。
妲己にとって、これ以上の屈辱は無いはずだ。
唇を噛みしめ、戒めを解こうと暴れるが、光の輪は肌に食い込み、外れる気配も見せない。


「おいお前、誰だよ。味方……なのか?」

「お前が小覇王か。私は……、そうだな、咲良と貂蝉の母だ」

「咲良のおふくろだって!?にしては若すぎるだろ!よく分からねえが、信じて良いんだな?」

「孫策!君は人を疑わなさすぎる。もう少し慎重にものを見たまえ!」


明らかに場違いな存在である女禍を見付けると、孫策は躊躇うこともなく真っ先に声を掛けたが、周瑜や仲間たちはやはり、簡単には警戒を解こうとしない。
そこで、奥に匿われていた咲良と小春、貂蝉が皆の前に姿を現すと、これまた孫策は大袈裟に驚き、慌てて愛娘の小春を抱き締めた。


 

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