天が流す一粒



貂蝉は己の連れていた白い馬に小春を乗せ、咲良はそのまま羽衣使って進軍をすることにした。
女禍も光の粉を撒き散らしながら傍らを浮遊させ、その後に兵が続いて、目的地まで移動する。
策を成功させるには、妲己軍との距離間を一定に保つ必要があるが、激昂した妲己は並々ならぬ速さで進軍するため、此方はほとんど逃げることに専念するだけだった。
女禍の存在が、妲己の冷静さを失わせたのだ。
その先に伏兵が隠れている可能性など、考えることも出来ないほどに。


「女禍様、咲良様、あちらに見える砦に妲己を誘導します。そのまま突き進んでください」

「何だ、もう終わりか。まあ良い、お楽しみはこれからだ」


唇を舐め、楽しそうに笑う女禍だが、ただ単に妲己をからかうためだけにやって来たのではないだろう。
もしかすると、女禍は咲良や貂蝉に会いたいあまり、わざわざこの地へ足を運んだのではないか。
などと想像する咲良だが、やはりそれは甘すぎる考えであろうか。


(だけど、こんなに優しい女禍さんが、命の危機にあったなんて…知らなかったよ…)


蘭華は母性的な人だったが、女禍は違う。
それは女禍が、蘭華である自分と仙女である自分とを区別して生きていたからであろう。
蘭華は、決して弱い姿を見せなかった。
いつも笑っていて、優しく包み込んでくれた。

長年、人界の汚れを浴び続けた結果、女禍は苦しんでいる。
では、どうすれば、彼女を救えるのだろうか。
誰かを犠牲にしなければ、誰かを救えない、そんなはっきりとした世の中では…、悲しいではないか。


左近から伝令を受けていた砦の物見番が合図を出し、扉を開けさせた。
貂蝉の乗った馬と咲良、味方部隊が次々と砦内に侵入し、つられるようにして遠呂智軍の妲己の親衛隊がなだれ込んでくる。
その時点で、策は成ったも同然だった。

待ち構えていた伏兵部隊が一斉に妲己を迎え撃つ。
集中攻撃を浴びた遠呂智兵達は混乱し、思わず引き返そうとするが、背後からは見計らったように主力である孫策隊が追い立てるのだ。
上手い具合に挟み撃ちにし、少しずつ間合いを詰めていく。
妲己は中央で何か喚いているが、その声はかき消されてしまって聞こえない。


 

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