天が流す一粒



「ああやだやだ、顔も見たくもない女に会っちゃったわ!だけど、今ならまだ許してあげる。ほら、落涙さんを置いてさっさと逃げ帰りなさいよ!」

「妲己、負け惜しみは負けてから口にするものだ。この私を負かせ、咲良を捕らえてみないか?」

「キー!相変わらず感に障る女ね!後悔させてあげる!みんな、あの女と落涙さんを捕まえちゃって!!」


女禍の挑発にまんまと引っかかってしまった妲己は、己の兵力全てを落涙捕縛のために動かした。
笛を奏でる場を失った咲良は、「行くぞ」とさっさと背を向ける女禍を追い、ふわりと羽衣を靡かせた。
いったい女禍は何をしに現れたのだろうか。


「女禍さん…どうして…?」

「何、深い意味は無い。私の可愛い娘達の様子を見にきただけのことだ」


飛び降りた先に、貂蝉と小春が待っていた。
中央砦内の動きはすぐに伝えられていて、再び部隊を進める準備は出来ているようだ。
簡単に予想は出来たことだが、皆は咲良の隣に居る女禍の姿を見て、驚きの声を上げた。
明らかに人間とは違う美女が現れたのだ、警戒されても可笑しくない。

だが貂蝉は、親しい間柄である蘭華…その本来の姿である女禍の姿を見て、ぱっと眩い笑みを浮かべた。
かつて、女禍は貂蝉の自由を奪い、幽閉した事実があったが、それでも貂蝉は変わらずに、心から蘭華を慕っているのだ。


「蘭華様!いえ…女禍様。私達を助けに来てくださったのですか?」

「ああ、閉月。私も、妲己との鬼ごっこを共に興じようと思うてな。さあ、何か策があるのだろう?何なら、上手く逃げてみせるが?」

「ええ、女禍様が同行してくださるなら心強いですわ。皆で妲己を引き付け、策を成功させましょう」


微笑む貂蝉の様子に、これまで身構えていた兵卒達も、女禍が遠呂智軍の配下では無いと理解したようだ。
だがその中で、小春だけは、神妙な面持ちで女禍を見つめていた。
指が白くなるほど、拳を握り締めているのだ。


(小春様…もしかして、女禍さんのこと、怖い人だって思ってる…?)


此の世の者とは思えぬ妖絶な美貌を持つ妲己と、雰囲気が似ている女禍を重ね、怯えているのだろうか。
小春は皆の視線から逃れるように俯き、細い肩も小刻みに震えていた。
明らかにただ事では無い反応だったが、今更本陣に引き返すことなど出来ないし、此処でのんびりしている暇も無かった。


 

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