やがて来たる



以前、陸遜との関係について悩んでいた小春に、自分の姿を重ねた咲良は、己の運命をまるで今想像したかのように語ったのだ。
此処には居られない、だから何処かへ…故郷へ帰らねばならない。
すなわち、この世界での死を迎える。
そのことに関する肝心な言葉は発していないつもりだったが、聡い小春は敏感に感じ取ってしまったようだ。


「黙っていてごめんなさい…小春様。でも…私は嫌々笛を奏でるのではありません。自分で決めたんですから。大好きな人たちの未来を、私の音で守ることが出来るなら…それで良いのだと思ったんです」

「わたしには真似出来ません!!どうして、そのように笑っていられるのですか…!?わたしは、落涙さまのように強く…前向きには考えられないのです…」


物静かで穏和な小春に反論されるとは夢に思わず、咲良は狼狽え、言葉を失った。
綺麗事を並べただけだと、思われてしまったのだろうか。
何故小春は、ここまで必死になっているのだ。
考え方が理解出来ないからと、それだけで泣き叫んで相手を困らせるような娘ではないのに。

泣きじゃくる小春を慰めようにも手に負えず、おろおろとする咲良を庇うかのように、貂蝉は細い指先で小春の涙を拭った。
そして、柔らかく微笑んだ。
多くの苦しみに耐え抜いた貂蝉だからこそ、他人の気持ちに触れ、痛みを共有出来るのだろう。


「無理に強くある必要はないのですよ。他人の進む道を真似る必要など、ありません。小春様は小春様で良いのです。もしも、愛しい殿方と離れ、ただひとり険しい道を歩むことになったとしても…生きてください。そして、幸せになってください」


その言葉に、咲良は覚えがあった。
それは、かつての呂布の願いでもあったのだ。
生きて幸せになれ、だけど他の男のものになるなら死んでくれ…などと、死んでも尚、貂蝉を束縛するような遺言を残した。
だが…呂布の愛情は、偽りの無い純粋なもの。
今なら咲良にも、呂布の言葉を健気にも守り続けていた貂蝉の気持ちが、分かるような気がした。


「ひとりとなって…幸せになどなれるでしょうか…?」


小春の疑問は、貂蝉ではなく咲良に向けられている。
同じ悩みを持つ人間にと、問うているのだ。
だが、咲良には小春の背負う枷がどのようなものか、分からなかった。
もしや小春は、陸遜との別れを予感しているのではないか?


 

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