やがて来たる



「咲良様…、私は此処へ来る以前に、蘭華様から話を聞かされたのです。私を幽閉するに至った理由や、悠生様から伝えられた旋律を奏でた咲良様が、どうなるかと…」

「え……、」


打って変わって言いにくそうに、貂蝉の声は小さくなっていく。
蘭華…女禍が貂蝉を幽閉した事実には、あまり触れるべきではないと思っていた。
女禍は貂蝉を哀れんで、呂布の元へと返してくれたが、一時でも貂蝉の自由を奪ったことに変わりない。


「蘭華様は…ご自身の命が僅かであると予期され、意志を継ぐものを見つけようと焦っておられたそうです」

「蘭華さんが!?うそ…、そんなこと、今まで一度も…」

「恩ある蘭華様の望みであれ…私に、応えることは出来ませんでした。新たな候補は考えてあると仰有られましたが、今の蘭華様では…また、私のように手放してしまうような気がして…」


仙人とは言っても、不死ではない。
女禍は己の死期を悟り、何が何でも後継者を定めようと、強引に貂蝉に押し迫ったのだった。
美しい容姿、気高い心…女禍は貂蝉がまだ若い頃から彼女の器を認め、懐柔しようとしていた。
だが、女禍の誤算は、人間相手に情が生まれてしまったことだろう。
これまで可愛がってきた貂蝉の幸せを想うあまり、女禍は悲痛な想いで貂蝉を手放したのだ。


「蘭華様はご自身が苦しい時だというのに、私だけではなく、咲良様の身も案じておられたのです。それこそ、咲良様の宿命を哀れとお思いで、救うことが出来ぬと嘆いておられました」

「……、苦しいのは、私だけじゃありません。蘭華さんがこんなに、辛い想いをしていたなんて、私は…自分のことばかりで…」


情けなくて、消えてしまいたい。
いつから、自分だけが不幸だと思い込んでいたのだろうか。
蘭華は、姉のようで、母のような存在だった。
咲良に不安を感じさせないように、いつも傍で笑ってくれた。
女禍は、性格で言えば蘭華とは真逆だが、やはり甲斐甲斐しく咲良の世話を焼き、見守ってくれたのだ。
頼りっきりで、甘えてばかりで。
彼女が抱える苦しみに気付けなかった。
後継者を失い、女禍はどのような気持ちで咲良を送り出したのだろう。
いくら全能である仙人だからと、日に日に押し迫る死に、怯えぬはずはない。


「咲良様は、自ら過酷な運命を受け入れたと聞きました。此の世の果てよりも遠い国へ…悠生様をも残し、帰らればならないなど…。ですから私は、咲良様と周泰様の仲がいずれ引き裂かれると思うと…胸が痛みます…」

「良いんです。悠生はこの世界での暮らしを望んでいますから。姉として、あの子の願いは叶えてあげたいんです。周泰さんには…私の今後を伝えました。私は、妻にはなれないのに…それなのに…それでも構わないと、傍に置いてくださるんです。えへへ…本当に、優しい人なんです…」


 

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