やがて来たる



「咲良様、先程の殿方は…咲良様が慕われる御方なのでしょうか。とても仲睦まじいご様子でしたので…」

「えっ!?そ、そうです…」

「ふふっ。強くあり、それでいて優しげな目をされておりました。どことなく、奉先様に似ていらっしゃいます…」


顔を赤くする咲良を見て、貂蝉は微笑ましいと笑った。
咲良の胸に輝く、愛らしい花の首飾り。
以前、そこには白い遺骨が下げられていた。
そして、貂蝉の口から"奉先様"の名を聞き、ふと、咲良は彼女に言わねばならなかったことを思い出した。


「貂蝉さん!私、呂布さんの首飾りを預かっていたのですが…、少し前に、光となって消えてしまったんです…お返しすることが出来なくて、ごめんなさい…」

「そうでしたか…ですが、良いのです。咲良様にはなんとお礼を申し上げれば良いか…、奉先様は現世に蘇られ、蘭華様の計らいで、再会を果たすことが出来たのです。遺骨が消えてしまったのも、奉先様が生きているからこそでしょう…」


にっこりと笑む貂蝉は、まるで聖母のように神々しく見えた。
遺骨を返すことが出来なかったと自分を責める咲良も、一時的に己を監禁した蘭華にも、憎しみや恨みを持ったりはしなかったのだ。
呂布の死から長く苦しい日々を過ごしてきた貂蝉にとって、彼の復活は何よりも喜ばしいことだったのだろう。


「実は奉先様も、咲良様に感謝をしておりました。奉先様は、咲良様と共にあったことを、うっすらと覚えておられたようです」

「ええっ!?し、信じられないです…」

「いずれ、私が奉先様をご紹介致しましょう。現在、奉先様は遠呂智の元におられますが、それは内側から咲良様と悠生様をお守りするためなのです」


とても幸せそうに、貂蝉は呂布について語ってくれた。
咲良自身、徐々に、用意されていた物語とは異なる展開を見せ始めていると、気付いてはいたのだ。
彼女が遠呂智軍から脱走を決めた理由は、遠呂智に惚れ込む呂布の目を覚まさせるため…だったのだが、貂蝉の説明によると、あの呂布が、咲良ら姉弟を守ろうとしているのだという。
貂蝉は咲良を守るためにと此処へ来た。
悠生から伝言を預かったのも、旋律によって遠呂智を眠らせるためだ。
しかし、遠呂智の武にばかり興味を抱いていた呂布もまた、同じ志を持っていると…俄かには信じがたい話だった。


「奉先様の瞳は、輝きを失っておりません。奉先様が変わられたのは、きっと、咲良様のお陰なのでしょうね…」

「そんなこと…私は呂布さんのために何か出来た訳じゃ…」

「いえ、咲良様は人の痛みを理解出来る御方です。だからこそ咲良様の音は、心に響くのでしょう」


貂蝉は、咲良に"落涙"の名を与えたことを誇りに思っているのだ。
咲良は貂蝉のことが友達としても好きだし、その気高き心を尊敬している。
貂蝉とて、友として、互いに尊敬の念を持たなければ、ここまでの高い評価は出来ないだろう。

何はともあれ、呂布が味方に付いてくれたのなら心強い。
こちらこそ、呂布に礼を言いたいぐらいだ。
貂蝉の幸せそうな笑顔を取り戻したのは、あの鬼神に他ならないのだから。


 

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