慰めを求めて



「そちらは…?」

「私の娘、小春です。さあ、挨拶なさい?」

「はい。孫策が娘、小春と申します。お見知り置きを…」


黒い髪を結い、白と桃色のふわりとした服に身を包む少女。
孫策と大喬の子だというその人は、例えるならば、小喬をさらに幼くしたような…春という季節を具現化したかのような、とても、可憐な娘だった。
美しさと愛らしさは、母である大喬からきちんと受け継いでいるようだ。
畏まった完璧な挨拶をされ、彼女より年上であろうはずの咲良の方が焦ってしまう。


「わ、私は落涙と申します。え、っと…、大喬様は、私の見舞いに来てくださったのですか?」

「ええ。酷い怪我と聞いたので…。あなた様の笛の音に、私は心から感動したのです!涙が止まりませんでした。ですから…傷を癒して、また音曲をお聴かせください」

「そんな…!ありがとうございますっ。大喬様に心配していただけて、嬉しいです」


あの日は確かに、大喬に想いを届けようと旋律を奏でた。
彼女に笛の音を気に入っていただけたのはこの上なく美しいのだが、咲良は少しだけ居心地の悪さを覚える。
大喬は他に比べれば装飾は地味かもしれないが貴婦人らしく清楚で綺麗な服を着て、またそれがよく似合っていた。
彼女に比べ、真っ白な寝間着を着せられていた咲良は、何だか気恥ずかしくなって、縮こまってしまう。


「お訪ねしたのにはもうひとつ理由があります。落涙様、今のあなた様は笛が持てないのでしょう?傷が完治するまでの間、どうか小春の笛の師になってくださいませんか?」

「笛の師って…ええぇ!?ありがたいお話ですけど、無理ですよ!私は先生って柄じゃありませんし…」

「ふふ。難しく考えず、遊びの延長で良いのですよ。小春も、落涙様を尊敬しております」


本当ですか?と驚きながらも小さな姫君を見つめたら、小春は満面の笑みを携えて頷いた。
きゅん、と咲良の胸が高鳴る。
元より、可愛い人やものに弱い咲良に、彼女の微笑みは、躊躇いなど一瞬で打ち砕かれるほどの威力があった。
頬を赤くしながら、了承の返事をする咲良に、大喬は安心したように笑った。



 

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