懐かしき風景



「なあ周泰、絶対に権を取り戻そうな。期待してるぜ!」

「…御意…」

「しっかしお前達、仲直り出来たみたいだな。左近は可哀想だが、良かったじゃねえか!」


咲良はどきりとするのと同時に、左近の名を出されて気まずさも感じた。
合肥で周泰と再会してから、彼は無言で咲良を傍に置き、…離そうとしないのだ。
別に手を繋がれている訳でもないが、周泰の低い声で「傍に居てほしい」「俺の傍を離れないでほしい」などと言われたら、恥ずかしくたって言う通りにするしかない。


(だって…私は離縁してくださいってお願いしたのに、まだ傍に置いてくれるんだよ…恥ずかしいけど、嬉しくないはずが無いじゃない…!)


今更ではあるが、夫となる周泰に敬語を使われるのは変、と疑問に思った咲良は、敬語を止めるようにお願いしたのだが、周泰は些か困ったように「…二人の時には…」と承諾してくれた。
訳を聞けば、意外にも、気恥ずかしいからだと言う。
確かに、咲良も人前で「幼平様」と呼ぶことには少々躊躇いがあった。しかし、二人きりの時だけ、と限定されるのも、それはそれで照れてしまうではないか。
本当に、贅沢な悩みである。

皆は孫策軍に加わった周泰を快く受け入れ、咲良と周泰の仲を聞いても、苦言を示す者は少なからず居たが、あからさまに軽蔑したりはしなかった。
ずっと咲良を案じていた尚香などは、稲姫が周泰の過剰な束縛を指摘しても笑って許し、人一倍祝福してくれたのだ。
それだけでも、咲良の心は楽になった。
尚香には、何度礼を言っても足りないぐらい、感謝している。
そして、咲良に不意を打って想いを告げた、左近だが…。


「俺はお嬢さんの護衛を続けさせてもらいますよ。なんたって信長さん直々のお願いですからね」


次に左近と会ったら、間違い無くぎくしゃくしてしまう…と覚悟していた咲良だが、予想に反して左近は態度を変えたりはしなかった。
いつものように、お嬢さんのお世話を頼まれた、俺はお守り役だなんて口にするが、何処までが冗談なのかも分かったものではない。
本当は…凄く傷付いているのではないか。


「やめてくださいよ、俺はあんたを悲しませたいんじゃない。…周泰さんには、話したんですかい?」

「…はい。全て、お話しました」

「ほう、それでいて尚、お嬢さんを傍に置こうとするんですな。それなら俺は構いませんよ?あんた達に幸せになってもらったら困る。負けたと思いたくないのでね」


ははっと乾いた笑みを浮かべる左近だが、その視線の先には周泰が居て、バチバチと火花を飛ばして睨み合うのだ。
左近にここまで入れ込まれた意味未だに分からず、咲良はただ困惑する。
そんな二人の姿と、あわあわと慌てる咲良を見て、孫策は誰よりも大きな声で笑った。


 

[ 343/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -