愛に報いる人



(…俺では…駄目なのか…?貴女を…幸せには出来ないのか…?)


頬に触れて止まっていた手を、胸元に滑らせる。
以前はそこに隠されていた遺骨の首飾りを、今日は何故か見つけられなかった。
怖くて、聞くことも出来なかった。
咲良がずっと首に下げていた、何者かの遺骨。
彼女の愛した男の話など耳にもしたくなくて、二人きりの褥の中、邪魔になるからと咲良が外した首飾りを寝台の端に押し退けてしまったのだ。
子供じみた独占欲ばかりが目立ち、情けないことだ。


「……、う…っ…」

「っ……」


ひやりと、した。
身じろいだ咲良が、睫を震わせ、ゆっくりと目を開ける。
周泰は反射的に手を引っ込めたが、時既に遅し。
ぼんやりとしていた咲良だったが、数回瞬きすると、意識を覚醒させ、見る見るうちに頬を赤らめていく。
ついには両手で顔を隠し、布団に顔を埋めてしまった。


「…ね…寝顔と寝起きの顔を見られるの、嫌だって言ったじゃないですか…!」

「…申し訳ありません…お許しを…」

「怒っているんじゃないです。恥ずかしいんです…」


あまりにも可愛らしい仕草と発言に、周泰は否応無しに胸が高鳴るのを感じる。
しかも、咲良はか細い声で怒ってなどいないと言ったが、それは寝顔を盗み見たことだけを指しているのではない。
咲良はこの時点で、周泰がおかした罪の全てを許していたのだ。


「…何故…責めぬのですか…?俺は孫権様を選び…貴女を苦しめ…傷付けた…」

「私は、孫権様のために頑張る周泰さんの姿を見ていたかったんです。周泰さんが孫権様を見捨てて私を選んでも…嬉しくありません」


…でも、と咲良は消え入りそうな声で続けた。
漸く顔を見せてはくれたが、起き上がる気力すら無いのか、咲良は今もぼんやりと天井を見上げている。


「少しだけ…寂しかったのは、本当です。私、陸遜様にお会いしたのですが…陸遜様は、心から小春様の身を案じられていました。離れ離れは同じなのに…お二人は…強い絆で結ばれていて、私はどうなんだろうって、考えてしまって…」


咲良は泣きそうな顔をしながらも微笑んでいる。
笑える状況では無かろうに。
陸遜とは違い、周泰は咲良に不安ばかり与え続け、更にはその命を狙ったのだ。
それなのに…どうして、笑おうとするのか。
そのような痛々しい姿を見せられては…、こちらが苦しくなるではないか。


 

[ 338/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -