慰めを求めて




ぽたっ、と雫が落ちる音がする。
誰かが一人で涙を流している。
やけに悲しい音だった。
だけど、これはきっと夢だ…、だって、あの人が泣くなんて、絶対に有り得ないから。


『俺は…何だったんだ…俺は何のために戦ってきた!無様に殺され、惨めに晒された!!』


呂布、鬼神と呼ばれた三国志の武将。
曹操軍に捕らえられ、殺されてしまった。
誰が予期したことだろう、最強とうたわれた男が、これほど呆気なく死するなど。
だが、己の死を受け入れられず、苦しんでいるのは呂布本人であった。

頭を抱え、垂れ下がった装飾品を振り乱し、嘆き苦しんでいる。
せっかくの静かな夢なのに…どうしてこんなに騒がしい。
唇を噛みしめ、人目をはばからずに涙する。
誰も見ていないと思っているから?
これは、私の夢の中。
だったら、横から声をかけたって、酷いことをされたりはしないだろう。

咲良は呂布の隣に腰を下ろし、彼が顔を上げるのを待った。
じっと見つめていたら、呂布が濡れた紅い瞳をのぞかせる。
恐ろしくはない。
むしろ、無防備な顔を見せる男が、可愛らしく思えてしまうのだから不思議だ。


『大丈夫…貂蝉さんは、ずっと呂布さんのことを想っているから…』

『嘘を言うな!!貴様に何が分かる…貂蝉は俺を置いていっただろうが!』

『…それでも、信じていたいです。私、貂蝉さんの友達なんですよ。貂蝉さん…貴方のことを話しているとき、とても幸せそうでした。だから…』


私も信じるから、どうか…信じてあげて。
泣かないで。
彼女に再び会える日まで、傍にいるから。

呂布の死を喜ぶものは多く居た。
だが、その死を悲しみ、弔い続けるものが居る。
愛し続ける者も居る。
1800年の時を越え、彼の存在は英雄と崇められているのだから。



━━━━━



「咲良!私が分かるかい?」

「ん……、蘭華…さん?」

「全く、世話の焼ける子だね…」


重い瞼を開いた咲良は、瞳に涙を光らせ、笑顔を浮かべる蘭華を見た。
知らない部屋だ。
ここはどこだ、と考えながら体を起こそうとしたら、全身にビビッと激痛が走る。


「いっ……!」

「ああ、まだ横になってなきゃ。あんた、三日は眠っていたんだよ?待ってな、人を呼んで…」

「ら、蘭華さっ…私、怪我をして…!」


気絶して倒れる前の記憶が蘇り、咲良は泣きそうな顔で蘭華を呼び止めた。
咲良には、傷の具合が分からない。
もし、フルートが持てなくなるぐらいの怪我だったら?
演奏が出来ない楽師は必要無いから、出ていけと言われたら?
ただでさえ、自分は前の笛吹きの代わりとして雇われたのだ、蘭華が解雇を言い渡す理由は十分にあるだろう。


「そんな顔しなくても、私はあんたを手放したりしないよ。あんたが自ら出て行くと言うまでね」

「蘭華さん…」

「そうそう、今回の件に関しては、責任は全て向こう側にあるから治療費は要らないとさ。この際だからお言葉に甘えて、今はゆっくりと療養しておくれ」


抱えていた不安が全て吹き飛んでいった。
咲良の欲しい言葉をくれる、蘭華の優しさに感動して涙が出そうになる。
いつか絶対恩返しをしよう、心に決めた。



 

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