深い音の流れ



「あ…落涙さま…!?落涙さまも父上と共にいらっしゃったのですか?」


咲良の存在に気付いた小春は、自然と孫策や大喬から離れ、ゆっくりと、師としてだけではなく心から慕っていた落涙の傍に歩み寄った。
感極まった咲良は今度こそ涙を堪えようと唇を噛みしめたが、次の小春の行動に、涙よりも違うものが溢れそうになる。


「落涙さま…ずっとずっと、お会いしたかったです…!」

「小春様…っ…」


きゅ、と小春は控え目に抱きついてくる。
だが、大人しい小春にしては勇気の要る行為には違いない。
責めることもせず、拒絶することもせず、会いたかった、と言ってくれるなんて。
思い出すのも辛いほど最悪な別れ方をしたはずだった、だけど小春は、今でも変わらずに落涙を慕ってくれている。
小春のいじらしい姿に、咲良は耐えられずに強く強く抱きしめ返した。


「わ、私…小春様を傷付けて…!ごめんなさい、私のせいで…!」

「そのようなことはありません。落涙さまを恨んだことなどたった一度もありません。わたしの言葉、信じてはいただけませんか?」


そんなふうに言われてしまうと、自分自身を責め続けていた咲良も、私のせいだとは言えなくなる。
小春は咲良の震える手に指を絡め、にっこりと微笑んだ。
悪意が全く感じられない笑顔に胸を打たれ、咲良は泣き喚くことはしなかったが、目尻に滲む涙を何度も擦った。
涙が枯れる、なんて有り得ない。
どんなことがあっても、咲良の感情は音楽と涙で表現されるものなのだ。


「孫策、邪魔をしてすまないが…小春様、一つお尋ねしても宜しいでしょうか。どうしても聞かねばならぬことがあるのです」


びくりと咲良の肩が跳ねると、小春は目を丸くし、心配そうに名前を呼んでくれた。
咲良が動揺するのも無理はないだろう、これまで、落涙を幻術師として疑っていた周瑜が、小春に聞きたいことがあると声をかけてきたのだから。

しかし、小春が意識不明に陥ったのは、傍にいた落涙のせいではないかと疑問を持たれた際、周瑜は咲良を懸命に救おうとしていたのだ。
だからこそ、皆の前で落涙の潔白を証明したかったのかもしれない。
孫策に連れ添い、大喬を救いだそうと奔走していた周瑜だが、きっと、小春に会ったら真っ先に尋ねようと思っていたのだろう。


 

[ 317/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -