荒れ狂う魂



「貴方達は何ということをしてくれたんですか!もし落涙殿の手が使い物にならなくなれば、彼女は楽師でいられなくなるのですよ!?ましてや女性の肌に傷を残すような…」

「わ、悪かったよ陸遜!民間人に傷を付けるなんて、御法度だよな…」

「っ……」


珍しくも弱気に物を言う甘寧、その言葉を聞き、陸遜は初めて自分を疑った。
そう、落涙は孫呉に暮らす民である。
それなのに、先程の陸遜の言葉では、彼女を民の一人ではなく、楽師・落涙という少女の身を案じて、個人的な感情に任せ甘寧の責任を追求したことになる。
軍師として、公と私を混同するなど、あってはならないことだ。

落涙の右腕に巻かれた布は赤黒い血に濡れて湿り、包帯の意味をなしていない。
凌統が呼んでいたやっと典医が駆けつけ、彼女はすぐに医務室へと運ばれていった。


「…軍師殿、申し訳ありませんでした。彼女の件は、全て俺と甘寧の責任です」

「凌統殿、それは、落涙殿の……」


ばつが悪そうに謝罪をする凌統の声は、様々な意味で困惑している陸遜の耳に入らず、代わりに彼が手にしていた黒く細長い箱、恐らく笛を閉まっている箱であろう、そちらに目が入った。
陸遜は凌統から箱を受け取ると、破損していないか確認する意味で、内心では彼女に謝りながら、その箱を開けた。

中身は、三つほどに分解して収められている銀色の笛と、手入れ用なのか汚れた布、そして、以前陸遜が貸した手巾があった。
大事に持っていてくれたようだが、よくよく見ると、何かが包まれている。
そっと上から触れてみると、布越しでも分かる…その個体の冷たさを指先に感じた。


(これは…遺骨?)


「骨ですね」

「ああ、骨だな」

「あ、貴方達は呂蒙殿に今回の件の報告をしに行ってください!」


元あった場所にそれらを戻し、丁寧に箱を閉めた陸遜は、改めて二人に向き直る。
年下の自分に説教をされるよりは、信頼出来る呂蒙からきつく言ってもらう方が、甘寧達のためになると判断した。


「きちんと反省をして、二度と同じことは繰り返さないと誓ってください」


良いですね?と早口に告げた陸遜は、小走りでその場を後にした。
その場に残された二人はばちっと視線がぶつかり、負けじと互いに睨み合っていたが…、陸遜の言葉を思い出し、ぐっと我慢をするのだった。


END

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