凍てつく枷



(小春様…幼いあなたが戦場に立っているなんて…)


久しく再会した孫策と争わねばならない、母と娘の哀れな宿命。
夫が裏切り者とされ、気丈に振る舞う母の傍らで、小春は母の寂しさを感じ取り、不安に押し潰され泣いているかもしれない。
最も愛しい人と…引き離されたままで。


「おっと、行かせませんよ?」

「ど、どいてください左近さん、大事なことを思い出したんです!だから、お願いだからっ…行かせてください…!」


小春に会うためにと、今にも拠点を飛び出しそうな咲良を、左近は冷静に止める。
男の力に勝てるはずもなく、身動きがとれなくなった咲良は、手首を掴まれたまま左近を弱々しく見上げた。

今じゃなければ、機会は訪れないかもしれない。
今しか、小春に想いを伝えられないのだ。
孫策は孫呉を裏切ったのではない、彼の志は決して変わらないのだと、信じてほしかった。
そして…、陸遜のことだ。
彼が幼い妻の身を案じていたことを教えて、少しでも苦しみを取り除いてあげたい。
これ以上、あの心優しい娘を悲しませてはいけないと、咲良は強い意志を示した。


「安心させてあげたいんです。好きな人と遠く離れていても、自分を想ってくれている…それだけで、辛くたって頑張れると思うんです」

「あんたが、そうなんじゃないですかい?」

「…そうですね。ですが、励まし役は私にしか出来ません。これは、私がやらなくちゃならないんです」


私が居なくても、物語は進む。
だが全てを知っていたとしても、やはり大切な人々の苦しむ姿なんて、想像だってしたくなかった。
だが、小春が思い悩む必要はない。
彼女と陸遜は敵ではないのだ。
そこが、咲良と小春の大きく違うところでもある。
本当は、周泰とだけは戦いたくないのに…戦場で出会わないことを祈るも、咲良の不安が消えることは無かった。


「では、俺も一緒に行きますよ。あんたが会いたいのは孫策さんの妹か、妻か、どちらです?」

「…すみません、大喬様の方です」

「謝るぐらいなら始めから言うことを聞いてほしいんですがね!ま、良いですよ。こっちもいずれ、相手の本陣へ突撃する羽目になりそうだ。俺も、南からの脅威は取り除いて起きたかったんですよ」


申し訳なくて咲良はうなだれるが、左近はほとんど文句を言わず、笑っている。
まるで孫策の笑顔が伝染したかのように。

北から進軍する尚香の相手は、孫策に任せておけば間違いないだろう。
そう思い、大筒拠点から戦場に出た咲良だったが、思いも寄らぬ光景に目を見開く。
左近もこれには予想外だったのか、やれやれと頭をかかえた。
まさか拠点の目の前で鮮やかな赤がぶつかり合っているなんて、予想もしなかった。


 

[ 301/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -