凍てつく枷



左近は険しい顔で言うが、わざわざ忠告をしてくれるのは、咲良の身を案じている証拠である。
小さく微笑んだ咲良は、控え目に頭を下げ、前を駆ける孫策を追い掛けた。
左近はああ言うが、咲良に助言を受け入れる余裕は無かった。
しっかりと握りしめた笛は飾りではない。
出来る限り、自分なりに戦うつもりだ。
皆のために出来ることを、しなければ。


「敵将、討ち取ったぜ!」


先を行く孫策の声を聞きながら、咲良は肩で息をする。
咲良は着いて行くことが精一杯なのだが、既に孫策は周瑜らの援護を受け、早速、大筒拠点を守備する敵将を討ち取っていた。
孫策はとても、嬉しそうな顔をしているのだ。
笑顔を振り撒いて、周囲に元気を与える。

孫策は愛する家族を敵に回すという絶望的な状況であるにも関わらず、人一倍戦を楽しんでいるように見えた。
先日、孫堅と別れたときに見せた、あの悲しげな表情を…咲良ははっきりと覚えているのに。


「孫策様!後尾が突かれております!どうやら遠呂智軍・稲姫様に奇襲を仕掛けられた様子で…」

「何だよ、尚香以外にも、随分勇ましい姫が居るもんだな」

「そ、孫策様…貴方というお人は…」


稲姫、本多忠勝の娘。
凛とした振る舞いをする、清らかな姫武者である。
奇襲という一大事を報告をした蘭丸だったが、孫策のまるで緊張感のない態度に呆れてしまったようだ。


「じゃあ俺、ちょっくら相手してくるぜ」

「孫策!君が行く必要は…」

「周瑜、尚香のことを聞きに行くだけだ。お前は引き続き拠点を潰してくれ!」


孫策は手を振ると踵を返し、稲姫に勝負を挑むため、たったひとりで敵中に向かっていく。
左近と目配せした蘭丸が孫策に付き添うが、周瑜は溜め息を漏らすも止めはしなかった。
断金の交わりと称されるほど、孫策と周瑜は長い付き合いなのだ。
周瑜は孫策相手に何を言っても無駄だと分かっていただろうし、彼のことを人一倍信頼しているのだろう。


「左近、君は奪った拠点に残り大筒を操作してくれ。落涙殿の護衛も任せたいのだが、良いだろうか」

「ええ、任されましたよ。周瑜さんも気を付けてくださいよ」

「無論だ。孫策がか弱き姫君に負けるはずはない。すぐに合流し、拠点を奪って見せよう」


現在最も安全だと思われる大筒拠点、この場所に、周瑜は咲良を置いていくことを指示した。
出来るだけ敵の目に触れさせないためにと、彼らは相当気を使ってくれているのだ。
今、咲良に意見をする資格は無い。
周瑜に着いて廻ったところで、少数となった部隊の中では、自分の身を守ることも出来ない咲良は本当の足手まといにしかならないからだ。


 

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