凍てつく枷



遠呂智軍に反逆し、さらに捕虜であった孫堅の救出に失敗した孫策軍は、裏切り者として追っ手から逃げ回る日々を過ごしていた。
息子と仲間達を逃がすため、大坂城に残った孫堅は追っ手に捕らえられ、再び檻の中へ。
孫策が起こした騒動のせいで、孫堅は勿論、孫権とそして孫呉の立場は一気にどん底へ叩きつけられた。
孫権は憤り、兄への憎しみも募るばかりであろう。

孫策軍はついに、関ヶ原の地に追い詰められてしまう。
最早、一戦交え、追っ手を撃退するしかないと、孫策軍は四面楚歌でありながら布陣し、敵を向かえうつことにした。

しかし物見によると、孫策軍の討伐を命じられた遠呂智軍の中には、孫尚香が加わっているというのだ。
孫策を捕らえるため、尚香が武器を手に戦場に立っているのならば、きっと孫権も、美しい瞳に長兄への憎しみを携えているはずである。
弟達は孫策の身勝手な行動を咎め、本気で兄を討つ気でいる。
己の自由のため、父を犠牲にしたと。
先程からひっきりなしに放たれる大筒が、兄弟の確執をありありと証明していた。

戦場に立つ咲良の胸にあるのは、一抹の不安であった。
敵総代将・孫権の傍らに控えているであろう周泰の存在だ。


(あの夢が、いつか現実になってしまったら…)


もし、周泰に刀を突きつけられたら…、咲良は自ら彼に斬られようとしてしまうかもしれない。
彼がそれを望んでいるならば…、だが、自分はまだ死ぬ訳にはいかない。
こんな時に弱気になってはならないのだ、辛くて苦しいのは、皆同じなのだから。


どぉん!と激しい轟音が響き、大地が揺れた。
空高く噴煙が舞い上がったと思ったら、其処には大きな穴が開いていた。
あれがまともに直撃したら、遺体も残らず木っ端微塵に吹き飛ばされてしまうだろう。


「周瑜、このままじゃ大筒の集中砲火を喰らうぜ」

「拠点の守備兵を倒せば、大筒はこちらのものだ」

「よし、全軍大筒拠点を潰せ!」


三国時代の人間にとって、仕組みの分からぬ大型兵器・大筒は脅威の存在であろう。
しかし、左近は大筒の扱いがお得意だ。
早々に拠点を奪って大筒を手に入れてしまえば、敵に大打撃を与えることも可能だろう。
そのためには、容赦なく降り懸かる大筒の攻撃を交わしながら、迅速に拠点を落とさなければならないが…


「お嬢さん、今回の戦は何処に居たって危険だ。孫策さん達の後に着いて来れますかい?」

「大丈夫です、ご迷惑はかけないようにします、出来るだけ……」

「それは良いんですがね、だが、笛を吹いちゃなりませんよ。あんたの存在が、遠呂智軍に知られる可能性があるんでね」


孫策と孫権との仲は修復不能…、それならば、国を想う孫権が、妲己の欲する情報を密告しないはずがない。
たとえ、落涙が孫呉に縁の深い存在であってもだ。
周泰に嫁ぐため、孫権の養女になった事実はあれ、今や誰も落涙に気を遣うことはないだろう。
余程親しい人物でなければ、落涙を進んで敵に売ることだって有り得るのだ。


 

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