軌道を歩んで



東門から侵入し、騒ぎが広まる前に素早く守備兵を蹴散らす孫策達。
一歩天守閣に足を踏み入れれば、皆が求める孫堅はもうすぐ其処だ。


「咲良様、此度も私があなた様をお守りいたします。蘭の傍を離れてはなりません」

「蘭丸さん…ありがとうございます。ですが、今日は私も頑張ります!」

「では、あまりご無理をなさらないでくださいね…?」


いつしか隣を駆けていた蘭丸は、咲良に向けて可憐な笑顔を振りまいた。
小谷城のときは、咲良の勝手な行動により彼の傍を離れてしまったから、今回は蘭丸の目も厳しいだろう。
ただでさえ、咲良は信長からの預かりものということになっている。
信長を敬愛する蘭丸にとっては、咲良を護ることが信長への忠誠の証となるのだろう。


「蘭丸さんは、信長様の元へは戻られないのですか…?」

「…今は、その時ではありません。私は此の目で孫策様の器を確かめたい。信長様もきっと、そうせよと仰るでしょう」

「そうですね…私も、そう思います」


短い間ではあったが、咲良も人界の魔王に触れ、その稀有なる特別な存在を我が身に感じた。
信長は、蘭丸の秘めたる想いさえも見通しているのだろう。
蘭丸がこの先、信長の元へ帰らず孫呉にとどまり続けることさえも…


長い階段を駆け上がり、天守閣の最上階に到着した孫策は、勢い良く最後の襖を蹴り破った。
其処には、皆が捜し求めていた男の姿がある。
騒ぎに気付いていたらしい孫堅は、久しぶりに再会した息子の変わらぬ姿に、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。


「親父!助けに来たぜ!」

「策か!皆も、よく生き延びてくれた…」


江東の虎、孫堅は、孫呉の家族である仲間達をひとりひとりじっくりと見つめた。
目を細め、安堵する表情からは、孫堅の優しさが伝わってくるようだ。
次に孫堅は蘭丸や左近、そして咲良を見た。
孫策を支え、長い道のりを乗り越え此処までやって来た仲間達に、孫堅は経緯を示すため丁寧に拱手し、頭を下げた。


「よくぞ息子を…孫呉を助けてくれた」

「私は、私の役目を果たしたまでです」


蘭丸は冷静に、事務的に答えたが、その美しい顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。
孫策が心から喜ぶその姿が、蘭丸には嬉しかったのではないか。
不思議なことに、孫策の感情は周りに影響し、連鎖するのだ。
彼に着いていくと決めた日から、孫策の器を計ろうとしていた蘭丸だが、もう…、そんな目的など関係無いのではないか。


(だからずっと、此処に居るんだよね…?)


誰かの笑顔を見ると良い気持ちになる。
咲良もまた、静かに微笑んだ。
…物語通りならば、彼らはまたすぐに離れ離れになるのだけれど、今だけでも…親子の再会を祝ったって良いだろう。


 

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