うたびとの呪い



(私、偽善者だって…、そんなつもりなかったんだけどな、端から見たら、そう思われちゃうんだ…)


少しでも気分を落ち着かせようとはあっと深く息を吐き、咲良が強く目を瞑ったその時、何の予兆も無く異変は起きた。
ふっ、と冷たい風が吹く。
窓はきっちりと閉めているはずなのに。
頬に触れた風に咲良が瞬くと、暗闇に揺らめいていた蝋燭の弱々しい光が急に膨れ上がり、ぱあっと弾けたのだ。
美しいがどこか不気味でもある、そんな異様な演出を前に、左近は敵衆を警戒して身構えたが、咲良は光の中に見知った仙人の姿を見る。
人懐っこい笑みを浮かべた、伏犠だ。


「おお咲良、久しぶりじゃな!相当調子が悪いようじゃが…、全く、むやみに笛を吹いてはならん。最初に忠告しておくべきだったわい」

「ちょ、あんた、何者ですか」

「わしか?わしは伏犠という。まあ、仲良くしてくれると嬉しいんじゃがのう!」


明らかに人間とは違う神々しい姿をした仙人を前に、流石の左近も驚きを露わに伏犠を見ていた。
左近と伏犠の出会いはまだまだ後のはずなのに…、また、物語が道から大きく外れてしまったようだ。

眩しさに目を細めていた咲良は、ゆっくりと起き上がり、畳に正座をする。
この、言い様のない気分の悪さは、女禍に与えられた桃の効果が消えたからではなかったのか。
伏犠が言うように、無闇に笛を吹いたつもりは無いのだが…、何か、間違った行いをしてしまったのだろうかと考えるものの、答えは出ない。


「あの、伏犠さん…私、必要以上に笛を吹いたつもりはありませんが…」

「おぬしが口にした桃は、毎日口にしていれば不死になる、それほどの力を秘めた桃なんじゃが、おぬしがむやみやたらに力を使ったため、桃の効力が一気に減ってしまったのじゃろう。一度に大勢に術をかけたりしとらんか?それではいずれ、おぬしの体が壊れてしまうぞ」


確かに、桃を口にしてから空腹や眠気は感じなくなり、さらには、一日中休まずに移動をしていても、疲労をそれほど気にならなくなった。
きっと、力を増幅する効果もあったはずだ、咲良はそんな素晴らしい桃の力を一気に使ってしまったらしい。
なんて勿体無いことをしたのだろうかと悔やむが、伏犠は別のことが気にかかるようで、難しそうな険しい顔をしていた。


 

[ 288/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -