優しさと愛情




三日も過ぎれば、年の近い護衛兵達ともすっかり打ち解け、咲良は彼らに音曲を聞いてもらうようになった。
勿論室内でしか演奏はしないが、明るいうちは外に出て一緒に見張りをしてみたり、屋根に登っては周りを見渡したりしている。
四方が木々に囲まれ、ずっと遠くには山々が、その手前には川が見えた。
左近はどれほど遠くへ行ってしまったものかと心配になる。


「咲良様の音を聴いていると、故郷を思い出します…」


しみじみと感想を述べた護衛兵に、咲良は嬉しくなって照れ笑った。
彼らに聴かせたのは唱歌…古くから地方に伝わるようなものばかりだった。
故郷の美しい自然や家族の優しさ、そういった懐かしい思い出を蘇らせる、不思議な旋律だ。
共感してもらえる、それは喜ばしいことである。


(左近さんは、そろそろ帰ってくるかな…)


孫策を見定めるだけとは言え、左近は戦場に飛び込んでいったのだ。
敗北した陸遜達は散り散りとなってしまう…、それほど、孫策は本気で向かってくる。
左近が無事で戻ってくる保証など無い。
いつだって戦は、命懸けなのだから。


「たっ、大変です!何者かの率いる部隊が真っ直ぐ此方に向かってきます!」

「何、敵か!?」

「それが、勢いは弱いので、相手に敵意は無いようですが…」


和やかな空気を打ち壊す大声が寺の中に響いた。
見張りをしていた兵が慌てて飛び込んでくるが、状況が掴めない咲良はおろおろとするばかりだ。
報告によると、その軍勢は旗を掲げているのでもなく、武器を手に攻めかかっているのでもなく、ただこの寺を目指し進軍しているらしい。
遠呂智軍の配下であろうか?
それだったら、見つかる訳にはいかない。
だが、脱出するにも、短時間で遠くへ逃げられるはずがないし、帰ってきた左近とも合流出来なくなってしまう。


「咲良様は奥へ。此処は私たちにお任せください。信長様からの預かりものであられる貴女様を、敵の目に触れさせたりはしません」

「で、でも…!」

「ささ、お早く」


正体不明の軍勢に勢いが無いとは言え、此処に護衛兵として残った者は少ない。
もし戦闘が始まれば、勝ち目は無いに等しい。
ならば自分も、この笛を吹いて敵の士気を下げなければ。


「咲良様!」

「お、怒らないでください…、でも、私…」


聞き分けが無いと、護衛兵に一喝されて咲良は縮こまってしまうが、その間に謎の軍団は寺へと辿り着いたようだった。
しかし、この進軍速度は少々異常ではないだろうか。
門前に続々と集まっている兵達を、咲良は何とか視界に入れた。


 

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