英雄の勇気



(関平さん……!)


無事でいてほしいと、祈るような気持ちで、咲良は本陣を飛び出していた。
馬に乗れない自分には時間がかかってしまう、そう思い、首に巻き付く羽衣を使って、咲良は一気に戦場を飛び越えた。

空からなら、戦場全体がよく見渡せる。
激しく戦塵が舞い上がる一角に、咲良は目をとめた。
周りには、クレーターのように深い穴がいくつも空き、旋風が起こるその中心には、兵卒も足軽も近付けないようなのだ。


(あ……!)


激しい爆破音と共に、粉塵の中から宙高くに吹き飛ばされる関平の姿を見た。
相手が関羽だからこそ、この衝撃であろう、受け身をとったとしても体にかかる負担は相当のものだ。
咲良は考えるより前に思い切り地を蹴り、目にも留まらぬ速さの風となって、関平を救いに飛んだ。


「っ……!」


間一髪、何とか関平を受け止めた咲良は、そのままずるずると地を滑る。
耐え難い衝撃に、咲良は目を瞑り、歯を食いしばって耐え、震える手に強く力を込めた。
地面が深く削れるほどに凄まじかったが、羽衣が咲良と関平の全身を包み込み、傷を負わずには済んだ。


「っう…、な…咲良殿!?」

「か、関平さん…ご無事で良かった…」

「貴女という人は、無茶をなさる…今すぐ本陣に戻ってください!咲良殿の力をお借りして勝利しても、父上に認めてもらえないのです!」


関平の瞳は真っ直ぐで、光を失っていない。
あまりにも真剣な目をするから、咲良は何も言えなくなってしまった。
圧倒的な力で打ちのめされても手放さなかった刀を握り、彼は再び前を向いた。


「拙者は弱く、無力かもしれない…、ですが、守ると決めた貴女に守られては、立場がありません!」

「関平さ……、」

「己を無力と思うなら、恥辱を雪ぐ気概を示さぬか!」


雷が落とされたかのように激しく一喝され、関平だけではなく咲良までもびくりとしてしまう。
ゆっくりと姿を現したのは…軍神と呼ばれた、関羽だ。
声や眼差しだけでこの威圧感を与えるとは、関羽の武勇は他に劣らず、まさに神懸かっている。


「咲良殿…どうか、分かってください」


関平の目線は関羽に向き、どうしても咲良を関わらせたくないのだと態度が示していた。
これは自分の問題なのだからと…、関平の背が咲良に語りかけている。


「じゃ、じゃあ…此処で応援していますね…!」


もとより、邪魔をするつもりは無い。
ただ、見届けさせてくれれば良かったのだ。
きっとそうすることしか、許してくれないのだから。


 

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