ささやく花々



阿国の舞により、軍の士気も高まってきている。
夜も更け、静かな幕舎の中で小喬や阿国と休んでいた咲良だが、ふと思い立って口を開いた。


「小喬様、私…左近さんと一緒に孫策様の元へ連れて行ってもらうことにしました」

「ええっ!?どうして…?せっかく会えたのに、落涙ちゃん…またどこか行っちゃうの?」


悲しそうに眉をひそめる小喬に対し、阿国はぽやんとした表情で小首を傾げる。
小喬には言っておかなければと思ったのだ。
孫策軍には彼の弟の孫権も居る…、つまり周泰が居るから、そのため織田軍を抜けたいのだと、勘違いされてしまうかもしれない。
このような状況で恋愛に現を抜かすなど、非常識にもほどがある。
彼らがいずれ孫策と対立すると分かっていなければ、同行を願い出たりはしない。
今はまだ…複雑な想いを抱いたまま、周泰に会いたくないから。


「落涙ちゃん…周泰さまを、追いかけるの…?一緒にいてくれないのに、好きになっちゃったの?」

「い、いいえ…孫策様はいずれ遠呂智から離反するでしょうが、孫権様は慎重な御方…、大胆な行いをされる孫策様とは対立してしまうと思いますし…」

「じゃあどうして一人で危ないことしようとするの?落涙ちゃんは辛い想いばかりしてるのに、可哀想だよ…!」


小喬はまるで子供のようにぐずりだした。
咲良を軽蔑するのではなく、その不遇さを思いやり、純粋な寂しさを訴えている。
関平の成長を妨げるから…、なんて説明したって聞いてもらえないだろう。
咲良は彼女を泣かせてはならないと焦ってしまうが、話を聞いていた阿国が慈愛に満ちた笑顔を浮かべ、小喬に優しく声をかける。


「咲良様はずっと遠くを見てはるんどす。うちにも見えぬものが見えてはる…」

「阿国さんの言葉は難しくって分かりにくいよぉ…」

「ふふ。咲良様?小喬ちゃんはうちがしっかりと守ります。咲良様は、必ず使命を果たしておくんなさい」


咲良の使命…、それは、仙人達にも告げられていたことだ。
子守歌を、遠呂智のために奏でること。
まずは旋律を知り、古志城に辿り着く、それが咲良にかせられた使命だ。

此処を離れる理由は単純なもの。
信長様に着いて行けばいつかは…なんて思ったけれど、人に頼るばかりではいけない。
自分自身で、与えられたこの力で、道を切り開けるようにならなければならないのだ。


「阿国さん、小喬様…、ありがとうございます。私は大丈夫ですから、ご心配なさらずに…。ですが、孫策様のお傍にはきっと周瑜様も居られます。私が言うのも難ですが、宜しければ小喬様も…」

「へへ…ありがと。でも、あたしも大丈夫!いつも周瑜さまを追い掛けてたから、たまには追い掛けてもらいたいなぁ、なんてね」

「小喬ちゃんも咲良様も、健気やわあ…かいらしなあ…」


萎れた花が再び咲き誇るような…小喬の笑顔が周りに与える力は並外れたものがある。
阿国に至っては何故か白い頬をほんのりと赤く染め、うっとりと恍惚な表情を浮かべているのだ。
二人に励まされ、咲良小さく微笑んだ。

今を、悲しい別れにはしたくない。
いつか、世が平和になったらまた、皆で笑い合えますように。
そう、祈ることは許されるだろうか。



END

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