ささやく花々



「思い詰めた顔をしておられると、関平殿が心配していましたよ」

「関平さんがですか?」

「ええ。一人で悩みを抱え込んでいるのでは…と。もし関平殿に胸の内を明かせないのならば、私で宜しければ、話を聞きますよ?」


関平は…他人の心にも敏感な、優しい人だから。
それなら、咲良の悩み事も大体の見当が付いているはずだ。
己の行く道について迷い、決めかねていること。

咲良は光秀を見つめるが、声が喉に張り付いてなかなか言葉が出てこず…二、三回唇を開いて閉じることを繰り返した。
だが光秀は急かすこともせず、咲良が口を開くのを待ってくれている。
弱音を吐くのではなく、意見を求めるだけ…そのつもりで、咲良は意を決して声を絞り出した。


「わ、私…島左近さんと一緒に、孫策様のところへ同行させてもらいたいと…思っているんです…」

「まさか、そのようなことを考えていたとは…、どうしてです?信長様の元では、貴女の願いは叶いませんか?」

「いえ!違うんです…信長様は必ず世の平和を取り戻してくださると信じています。でも私は弱くて…、関平さんの成長を、妨げてしまうから…」


最後はほとんど聞こえないぐらいの声量だったが、光秀はそれだけで察してくれたようだ。
光秀は軽く溜め息を漏らし、そして笑った。
それが何故だか喜んでいるようにも見えて、咲良は首を傾げた。


「男は、女性を守ることを重荷と思ったりはしませんよ。人の良い関平殿なら尚更です」

「関平さんが優しい人だということはよく分かっています。私は…その優しさに甘えてしまうんです…」

「…厳しいことを言うようですが、孫策殿の元でも、貴女はきっと守られる立場からは抜けられぬと思いますよ。それでも、此処を離れたいと言いますか?」


戦う力が無い、だけど、守る力はあるから、代わりに守ってもらうことが出来る。
それでは駄目なのか、と光秀は問う。
関平は望んで咲良を守っているし、それを迷惑だとも思っていない、逆に自分の力に変えることの出来る男だ。

光秀は相変わらず穏やかな表情で、服の袖をぎゅっと握る咲良を見下ろしていた。


「…怖いのではありませんか?関平殿に守られ続けることが。貴女の中に、大切な人間が増えることが…」

「怖い…、そうかもしれません…」


その恐怖の種類まで見透かされたら…、それはある意味で恥ずかしいことだ。
咲良は、恋をする好き、とはまた違う感情を関平に抱いている。
友情や、家族愛に似た気持ちを。
恋や、愛という感情に恐れを抱いた。
想われても、通じ合っても、結局は上手くいかなくて…一人に戻ってしまう。
咲良は人を好きになりすぎて、自分も相手も傷つけた経験があるから、あまりそういう人物を増やしたくない…我が儘な想いがあるのだ。

だから、もう此処には居られない。
心地よいぬるま湯のような優しさの中では、何よりも、自分自身の心の成長がぴたりと止まってしまう。


 

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