ささやく花々



九州で捕虜とした島左近と話し合いを重ねた結果、信長は彼を小覇王・孫策の元へ送り届けることを決める。
渡り軍師であった左近は各地で様々な情報を得ており、現在は遠呂智配下にある孫策が、必ず離反する気になるであろう重要な秘密まで握っているという。

織田軍一向は、潼関の地に辿り着いた。
此処を抜けなければ、孫策軍と合流することは叶わない。
しかし、潼関に織田軍が訪れることを想定し、大量の遠呂智がこの地に向かってきているとの報が飛び込んできた。
翌朝には開戦となるだろう。
皆は戦の準備を進め、明日に備えていた。
信長の壮大な計画…、勢力を越えた勢力を築き上げるために、反乱軍は動き出す。


(また、大きな戦になりそう…)


咲良は光秀の部隊が拠点とした砦の見張り台に上り、広い潼関の地を眺めていた。
新たな仲間となった小喬や阿国とも話をしたが、彼女達は戦には積極的な姿勢を見せた。
小喬はただ無邪気なだけで、阿国は戦場での出会いを楽しみにしているのだろう。

咲良はこれからについて、悩んでいた。
このままではいけない、そうは思うのだが。
親切な人達の優しさに甘えすぎて、それが当たり前と錯覚するようになってしまった。
このまま、関平の邪魔をしてしまうぐらいなら…いっそ、新しいところで最初からやり直した方が、良いような気がするのだ。
誰にも頼らず、自分だけの力で生きていけるように、ならなくては…。


(左近さんは孫策様の元へ行く…、だったら私も…)


遠呂智の属国である孫呉の人々の心は、誰が見てもばらばらだった。
孫策はいずれ遠呂智から離反し、孫権とも対立してしまう。
もし咲良が孫策軍に加わることとなったら、いずれ、孫権の護衛である周泰とも戦わなければならない。
周泰に本気で殺意を向けられたら…、考えるだけで、胸が張り裂けそうになる。

多くの人が、家族や旧友、親しい仲間達と争わざるを得ない状況にあった。
悲しみを押し殺し、大切な誰かのために戦場に出て、別の大切な誰かと刃を交える。
その苦痛は、耐え難い悲しみを伴った。


「ああ、此処に居ましたか。少し、私と話をしませんか、咲良殿」

「光秀様?」


咲良が居ることを聞いて来たのだろう、狭い見張り台に上ってきた光秀は、柔らかな笑みを携え、咲良が見ていた潼関の地を黒い瞳に映した。


 

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