心と心の絆



「はなしてよぉ!あんたたちの仲間になんか、ならないもんね!」


小喬のグーパンチが足軽の頬に命中する。
いくら幼く見えても、孫呉の夫人を無碍に扱うことも出来ず、皆は手を焼いていた。
彼らは咲良の姿を見ると、泣きそうな顔をし、安堵するのだった。


「小喬様…、お久しぶりです」

「えっ、落涙ちゃん!?良かったあ、無事だったんだね!でも、どうしてここにいるの!?」


拱手し頭を下げた咲良に飛び付いた小喬は、黒々とした目をぱちぱちさせていた。
尚香も同じだったが、城から突然姿を消した落涙を、小喬もまた、案じてくれていたのだ。


「今は織田信長様にお世話になっているんですよ。信長様は強大な敵を討つため、同じ志を抱く仲間を集めているんです」

「そうだったんだぁ…、落涙ちゃんがいるなら、あたしもお世話してもらっちゃお!」

「小喬様が来てくださったら私も嬉しいです。織田軍には女性が居なかったので…」


気を許せる人が居ないからなかなか落ち着けなかったのだと、思わず本音が出てしまったが、小喬は突然顔色を変え、咲良の顔を覗き込んだ。
小喬にしては珍しい真剣な眼差しを向けられ、咲良も狼狽してしまう。


「落涙ちゃん…、あたしね、落涙ちゃんと周泰さまの結婚、認めたくなかったの。だって落涙ちゃんは陸遜さまのことが好ふがっ」

「だだだだめですって!小喬様、それは秘密なんです!」


咲良は無礼を承知で、両手のひらで小喬の口を塞いだ。
今は捕虜扱いの張角や阿国も隔離されているというのに、本陣内に丸聞こえではないかと案じてしまう。

むぐむぐと口を動かす小喬を解放した。
いつの話を持ち出すのかと思えば…、陸遜に仄かな恋愛感情を抱いたのは、既に遠い過去である。
しかし、咲良の恋心を信じていた小喬は、女の気持ちを無視した政略的な婚姻に怒りを覚え、だから宴にも姿を見せなかったのだという。


「分かってるよ、それが女の子の運命だもん、だけどあたし…周泰さまを許せない!落涙ちゃんがさらわれたのに、追いかけてもくれないんだよ!?落涙ちゃんが可哀想だよ…」

「…周泰さんは、自分の命よりも孫権様を大事にされています。私も、分かっていたつもりですが…ちょっとだけ、胸が痛いです」

「ねえ、落涙ちゃん…、落涙ちゃんが小春ちゃんを可愛がってることは知ってるけど…」


わああっと、大きな歓声が聞こえた。
きっと、信長が帰ってきたのだろう。
島左近の身柄を拘束し、九州の戦いは此処に幕を下ろす。
いつしか歓声が勝ち鬨に変わり、咲良もそろそろ光秀達を迎えに行かねばと思うが、それを阻止するかのように小喬に手を握られ、息を呑んだ。


 

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