心と心の絆



(どんな曲なら、彼女の戦意を失わさせられるかな…?)


先程と同じように眠らせれば簡単だろうが、そんなことでは彼女は織田軍を認めず、仲間に迎えることは出来ないだろう。
ゆっくりと考えている暇も無く、咲良は身を乗り出し、一気に櫓から飛び降りた。
羽衣が広がり、ふわりと風を受ける。
音の届く距離まで下降し、咲良は阿国と目が合う前に、思うままに笛を奏でた。

阿国を懐柔させるためではなく、咲良は彼女の舞いを引き立てるための曲を選んだのだ。
いきなり現れて笛を吹く変わった格好の娘に、阿国は初めこそ首を傾げていたが…


「かいらしいお嬢ちゃん…うちに舞ってほしいんどすか?ほな、お望み通りに」


にこりと微笑んだ阿国は、咲良の奏でる旋律に合わせ、美しい舞いを披露する。
花を咲かせる木なんて辺りには一本も見当たらないのに、色とりどりの花びらの散る光景が鮮明に浮かんでくるのだ。
敵味方関係なく魅了させてしまう、まさに天下一の舞いだった。

阿国の舞は奏者までもを虜にする。
刀を振りかざすことを忘れて美しい阿国の姿に見入っていた将兵らが、盛大な喝采を送った。

舞を終え、番傘を閉じた阿国は、音曲を奏でた咲良へ、感謝の言葉をかけてくれる。
すっかり戦の目的を…"良い男"を捜すことも忘れ、彼女は満足げに笑うのだった。


「うち、こないに気持ち良く舞えたのは久しぶりどす。お嬢ちゃん、ただ者じゃありまへんな」

「わ、私も阿国さんの舞を間近で見れて嬉しいです。とても素敵でした!」

「ほんまに?かいらしいなあ…ほな、うちと出雲に住にましょ?」


よく耳にしていた彼女の誘い文句ではあったが、阿国の美しさに見取れていた咲良は流れで「はい!」と元気良く頷いてしまった。
ほんなら早速、とぐいぐいと手を引っ張る阿国に、咲良は初めて焦りを感じる。
だが、夢から覚めたように我に返った織田軍の足軽によって救われ、事なきを得るのだった。


(い、一応引き留められたけど…あとは信長様にお任せするしかないかな…)


阿国のお誘いは胸がきゅんとするほど嬉しかったが、今は喜んでもいられない。
小喬のことも心配だ、不服そうな阿国を連れて本陣に戻り、信長の帰陣を待つことにした。


 

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