心と心の絆



張角を捕縛する大功を上げた秀吉が、周辺の敵兵を一掃していたため、咲良は難なく本陣へと戻ることが出来た。
九州の戦いも中盤に差し掛かり、残りのイベントは見届けられそうにないが、きっと織田軍は奮戦して勝利を勝ち取ってくれるだろう。

咲良はぐっすりと眠る小喬の傍らで笛を奏でていた。
今回は子守歌ではなく、傷を負い、本陣へ命辛々戻ってきた将兵達の心を慰めるために。


「ああ…咲良様の音は心地良い…」

「まるで、痛みが和らぐようです…」


美しい音楽にはヒーリング効果があるという。
痛ましい傷を治すことは出来なくても、元気を与えることは出来たようだ。
うっとりと耳を傾けてくれる将兵のお陰で、咲良の心もすっかり落ち着いていた。
やっぱり、笛を吹いている時が一番、自分らしく居られるような気がする。


(でも私は…孫呉に帰って皆に守られているべきだったのかな…)


笛を唇から離すと、溜め息を漏らしてしまう。
小喬の可愛らしい寝顔を眺め、柔らかな茶色い髪の毛を撫でながら、咲良は想いを巡らせていた。

落涙は妲己に追われる身であり、咲良は孫呉の人々に迷惑をかけたくない一心で此処まで来た。
だが信長の元でもお荷物であることは変わりなく、物語の進行を乱すだけではなく、関平の成長を妨げる。
そんなことしか出来ないのならば、いっそ、孫呉へ逃げ帰った方が…


(孫呉には居場所がある…だけど…!)


やはり、今は帰れない。
遠呂智軍に対抗する反乱軍と共に居なければ、妲己に捕らえられるのも時間の問題である。
そうなれば遠呂智へ子守歌を届けることは叶わず、無惨にも殺されてしまうだろう。
信長は最も天下へ近く、曹操が目指す覇道を極めることも出来るであろう男だ。
信長が居るから、咲良は此処に居ることを選んだのだ。
しかし、このまま、関平に頼っている訳にも…


「お、女が!傘を持った女が、次々と我が軍の部隊をけちらし、本陣へ向かってきます!」


櫓の上で見張りをしていた兵が酷く狼狽した様子で叫んだ。
傘を持った女…つまり阿国のことであろうが、彼女が奇襲を仕掛けたというのだろうか?
咲良は開戦前に見せてもらった布陣図と物語を照らし合わせ、阿国の行動の意図を探ろうとする。

敵本陣の門を守備する兵に攻撃を仕掛けた場合、釣り野伏が発動し、本陣近くの橋が落とされることになっている。
阿国は橋を境に味方と分断されてしまい、仕方無く此方に向かってきたのだろうか。

ほぼ勝利が確定していたことが仇となり、織田軍本陣に有力武将は残っていなかったのである。
しかし、恐らくだが、阿国に殺意は無い。
此処では、"良い男"を捜すことだけに精を出しているのだ、きっと、手荒なことはしてこないはず…。

咲良は護衛兵に小喬を託すと、笛を片手に、物見櫓の梯子を上った。
櫓の上は思ったよりも風が強く、まともに目を開けていられない。
だが此処からなら、戦場がよく見渡せる。
華やかに散りゆく花を思わせる阿国は、傘をくるくると回し、優雅に舞いながら敵を吹き飛ばしていた。


 

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