涙から生まれる



(小喬様が守っているのは西の砦だったかな…?怪我をさせずに降伏してもらえる方法があれば良いんだけど…)


孫呉の家族と離れ離れになった小喬が、九州の地に落ち延びている。
小喬は裏表無く接してくれた優しい女性だ、彼女を傷つけることは絶対に出来ない。
咲良の不安を煽るかのように、光秀が率いる軍は西砦へと向けて進軍する。
しかし、襲いかかってくる敵兵と刃を交えた光秀は、呆気なく倒れてしまう相手の弱さに、意外そうな顔をした。
この程度、棒を振り回してるようなものだ。
敵兵の士気は高いものの、彼らは戦慣れしていない、民による義勇軍と思われる。


「くっ…島左近、民を戦に巻き込むような男では無いと思っていたのですが…!」


光秀は刀ではなく素手で義民兵を殴打し、気絶をさせる。
光秀の性格上、必要以上に力無き者の命を奪うことなど出来なかったのだ。


「いけない…光秀殿は優しすぎる。相手が民とは言え、此処で拙者達が倒れては意味が無いと言うのに…」


関平の呟きを間近で耳にした咲良だが、二人の意見はどちらも正しく感じられてしまった。
武器を手にするならば相応の覚悟をしなければならない。
命を奪う覚悟、奪われる覚悟が無ければ、武器を持ってはならない。
彼らとて、自らの意志で死と隣り合わせの戦場に立っているのだから。


「拙者はこのまま敵将を狙います。咲良殿は一度拠点へ下がってください」

「ま、待ってください!私も…砦まで行きたいです。連れていってください!」

「……ならば拙者も、素手で戦わねばなりませんね」


困らせてしまったのに、関平は笑ってくれた。
足手まといになるとは分かっていても、親しい仲であった小喬と戦うと言われては、じっと待っていられるはずがなかった。

馬を下りた関平に手を引かれ、砦を目指して足を進める。
関平は迫り来る民兵の集団を避け、光秀の後を追った。
真っ当な考えを語った関平も、咲良に残酷な瞬間を見せないようにと、気を遣っているのだ。


(このままじゃ関平さんも私も、信長様に認めてもらえないよね…)


こうして何から何まで頼ってばかりいることで、関平の成長を妨げている。
それではいけないと思うのだが、自分の戦い方が定まらない咲良は、誰かに寄り添ってもらわなければ今を生きることも出来ない。
孫呉の人々に迷惑をかけたくないからと国を飛び出したのに…関平ひとりに頼りきっていては、それこそ迷惑だろう。


 

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