涙から生まれる



「…くっ…罠か!?」

「えっ!?」


突然、何の前触れもなく、息を呑んだ関平が強く馬の腹を蹴った。
瞬時に速度を上げたものだから、ぐわんと体が揺られた咲良は振り落とされそうになってしまう。


「かっ…関平さ…!?」

「すみません…!しっかり掴まっていてください!」


必死に馬を走らせる関平の声よりも先に咲良の耳に届いたのは、雪崩を思わせる鈍く激しい轟音だった。
風圧に吹き飛ばされそうになるも、何とか振り返って後方を見たら、先程通ったばかりの道が無くなっている。
一面が、土砂で埋め尽くされていたのだ。
危機を察した関平が馬を走らせなければ、下敷きになっていたかもしれない。
恐らく張角軍の術によって引き起こされた土砂崩れにより、味方が分断されてしまったのだろう。

敵を誘い込み、橋を破壊したり岩で道をせき止め、逃げ道を失わせてから伏兵で襲い掛かる…釣り野伏と呼ばれるものである。
生き埋めになった者も居るはずだ。
だが、悠長に生存者の確認をしている暇は無かった。


「おお、無事じゃったか!光秀と先に行くんじゃ!わしは此処に残って分断された味方との連携を回復しちゃる!」

「ですが、秀吉殿…!」

「どうやら南砦を通れば、土砂の向こう側に行けそうなんじゃ。わしが砦を落とす!先を行く信長様を護ってくれ!」


迷いを見せた関平とは違い、秀吉は仲間を救うため死地へと飛び込んでいく。
南砦を守る将は張角だが…一筋縄ではいかないだろう。
これは遠呂智軍に対抗出来る有力な将兵を集める戦なのだ、そのために味方を失っては何の意味も無い。

関平は力強く頷き、「それで良いんじゃ」と笑顔で去る秀吉を見届けた後、砂埃が舞う中から光秀を捜し出した。
拠点にて体勢を立て直し、既に光秀は進軍するための準備を整えていたが、敵側の思わぬ攻撃に少なからず動揺したようだった。


「どうやら土砂崩れの衝撃で別の道にも影響し、我々以上に進軍が困難な様子。島左近の軍略にしては、あまりにも稚拙ですね」

「拙者もどこか異様に思います。何か裏があるのでは…」


後先考えず、道を分断しただけの単純な軍略。
光秀も関平も先の先を読み、警戒を解くことはないが、ただ単に寄せ集め軍の連携が、左近の思うようにいかなかっただけだ。
皆が皆、自己主張が激しいせいもある。
左近の元には張角、阿国とそして、小喬が身を寄せているはずだが…


 

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