涙から生まれる



延々と続いた光秀のお説教だったが、最後に浮かべられた微笑みは美しく、思わず見とれてしまうほどだ。
この若々しさで、咲良とそれほど年も変わらない娘が居ると言うのだから信じられない。


(黒田官兵衛が居るんだから、ガラシャや他の武将達も…この世界の何処かに居るのかな?いつか、会ってみたいな)


本来は、この頃の物語の中に登場していなかった光秀の娘・ガラシャもまた、官兵衛と同じくこの世に存在している可能性の方が高い。
それならば、彼女は光秀と生き別れ、違う勢力に身を寄せているのかもしれない。
光秀は…娘の行方について知っているのだろうか。
もしガラシャの居場所に心当たりがあったとしても、織田軍の主力である光秀が戦を放り出して娘の捜索に行けるはずがないのだが、本当は、凄く心配しているのかもしれない。


(……うわ…!か、官兵衛が見てる…!)


あろうことか咲良は先程から気になって仕方がなかった、かの人物とバチッと視線がぶつかってしまった。
官兵衛は明らかに咲良を見ていた。
まるで異端者を監視するかのような目つきが恐ろしく…、そのまま貫かれてしまいそうだ。

咲良は官兵衛の視界から消えようと、ささっと関平の影に身を隠したが、逆に関平に首を傾げられてしまった。
…遊んでいるつもりは無いのだが、これはこれで恥ずかしい。


織田軍は三方に分かれ、咲良は主力部隊である秀吉・光秀の軍に同行していた。
咲良は今回も、関平の馬に乗せてもらっている。
戦場で他人を庇いながら戦うとなると、普段の倍は神経をすり減らしてしまいそうだが、慣れてしまったのか関平は困った顔一つしない。

九州の戦いはハチャメチャな印象がある。
次々と巻き起こる自然の驚異、それを引き起こしているのがまさか人間であると、ゲームを知らなければ咲良は絶対に信じなかったはずだ。
黄天の奇跡、と当事者・張角は叫んでいるのだろうが、現代の感覚では奇跡を引き起こした張角、その人の存在こそが奇跡となる。

数々の奇術に皆が混乱する中、術に興味を示していた秀吉は、次に何が来るか想像出来るぐらいの余裕を見せていた。
秀吉は野心家で意地汚いと評されることもあるが、信長配下として乱世を駆け抜けた立派な将である。
秀吉は誰よりも早く、戦局を見抜いていたのだった。


「はーっ、わしはたまげた!世の中にはまだまだ面白い奴がおるんじゃな!」


秀吉の底抜けなほどの明るさは、自然と将兵の士気を高めるようだ。
人柄を見ただけでも分かる。
信長の信頼を受け、織田軍を支える重役を担っているのが、この秀吉なのだろう。


(張角の大規模な術に比べたら、私の笛はちっぽけだけど、可愛いものだよね?)


混乱に乗じて笛を吹いても、誰も耳を傾けてくれないような気がしてくるから怖い。
自らの力に心酔している張角が、己の軍略に誇りを持つ左近とは相容れないであろうことと、寄せ集めである敵部隊の連携のぎこちなさは敵軍にとって大きな穴である。
其処をつつけば…、或いは、互いに足を引っ張らせ、自滅させるか。

咲良は言いようの無い不安を感じていた。
笛は身を守るための武器にはならない…今までどうにかやってこれたのも、羽衣の力が大きいだろう。
いつまでも関平に守ってもらっては…意味がないではないか。
早く、笛の力を自分のものにして、自立しなくてはならないのに…


 

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