涙から生まれる



川中島で馬超を新たな仲間に加え、織田軍は九州へと向かった。
九州では反乱軍が勢力を拡大し、軍を指揮しているのが、黄巾族の指導者・張角と石田三成の軍師・島左近だというのだ。
左近の才をよく知る者は揃って頭を抱えていた。
だが、左近ほどの男を仲間にしない理由は無い。

道中、言葉を交わす程度であれ、関平や光秀との距離を深めていた咲良だが、思いも寄らぬ事態に気が付いた。


(秀吉様の隣に居る、あの人ってやっぱり…、)


変わらず光秀の部隊に組み込まれていた咲良だが、その視線は秀吉の周辺へ向いていた。
信長の忠実な家臣である秀吉は、兵の数こそ多いが、自ら大軍を率いて戦場に立っている。
己の存在を主張しようと派手な鎧を身に纏い、出陣前の兵を鼓舞する秀吉の傍らには、失礼にも思えるほど無反応な、寡黙すぎる男が居る。
まだらな白髪と目元の痣が特徴的な…彼は間違い無く、黒田官兵衛だった。


(普通に溶け込んでるけど…あの黒田官兵衛が此処に居るってことは、少なからず物語も変わってしまう可能性があるんだよね…?)


たまに、この世界がゲームに基づいていることを忘れてしまうが、あの顔をした官兵衛はまだ、この時点では存在していないはずであった。
だからこそ違和感はあったが、展開が知らないものに変わってしまうことについて心配をする必要は無いだろう。
官兵衛は味方で、秀吉の傍に居るのだから。


「咲良殿、今回も拙者と共に行動してください。光秀殿に従い、敵武将は生け捕りにし、降伏させよとのことです」

「分かりました。また宜しくお願いしますね、関平さん」

「ええ。島左近は名軍師と聞きますから…くれぐれも、無茶はせぬよう…」


礼を言い、大丈夫ですよと咲良は笑って関平を安心させようと試みた。
日に日に関平は心配性になっていくような気がするが、それは自分がいつまでも危なっかしいからだろう。
更には光秀も傍に寄ってきて、難しそうな顔で小言を口にするものだから困ってしまう。


「咲良殿、関平殿の言う通りですよ。大きな怪我をしていないから良いものの…、嫁入り前の娘が戦場に出るなど、信長様の命でなければ私は認めなかったでしょう。絶対に、気を抜いてはなりませんよ?」

「は、はい。精一杯頑張ります!」

「ならば、宜しいです」


これでも、嫁入り前…という訳ではないのだが、平均的な結婚年齢が現代よりずっと若いことを考えると、自分はかなりの子供に見えるということだろうか?
真実など話せるはずが無いし、誰にも言えない複雑な想いを胸に抱え、咲良は苦笑するばかりだった。


 

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