遠き地の憩い



九州の地に大規模な反乱軍の拠点があると聞きつけた信長は、仲間を増やすためにかの地を目指していた。
明智光秀の配下として、関平の馬に乗せてもらいながら従軍していた咲良だが、僅か数日足らずで京から川中島まで辿り着いたことに驚いた。
日本の…そして中国の地理はめちゃくちゃになっているのだろう。


「綺麗な紅葉…、」

「ええ…ですが、今は初夏のはず…季節までもが狂い始めているのかもしれませんね…」


川中島は一面、秋色に染まっていた。
先頭集団が減速し始め、関平も皆に従って馬を歩かせていたが…咲良はふわりと目の前に舞い降りた赤い葉を手にすると、小さく溜め息を漏らした。
平和とは程遠いはずの現実。
山並みを彩る赤や黄色、美しい紅葉を見ていると、世界の混乱など無かったかのように錯覚してしまう。

だが、その平安の幻を打ち消すかのように、前方からただ事ではないざわめきが聞こえてくる。
関平が険しい表情を浮かべた時、信長の素早い判断を後方の家臣に伝えるために、伝令兵が大声で叫びながら走り去った。


「馬超将軍が遠呂智軍の手から民を守ろうと奮戦中の模様!信長様は、民を善光寺へと連れ、馬超将軍に加勢せよと仰せられております!!」


川中島、そして、馬超…
それもまた、咲良には覚えのある話だった。
川中島に赴いた遠呂智軍は、弱き民にも容赦なく手をかける非道な集団。
正義を掲げる馬超は、圧倒的な劣勢でありながらも挫けたりせず、死に物狂いで民を守ろうとしているのだった。


「まさか馬超殿が…、このような状況でもあの方は気高さを失われなかったか…流石は馬超殿だ」

「関平さん、私も一緒にた…」

「はい。拙者、咲良殿も民も守りきってみせましょう」


これから戦場に飛び込むと言うのに…関平は殺戮の場に似つかわしくない爽やかな笑みを浮かべた。
そのような純粋な瞳で見られては、私も一緒に戦わせてくださいと口に出来るはずがない。


孤軍奮闘していた馬超へと接触した織田軍は、少数に兵を分けて陣を敷き、拠点を配置する。
咲良は光秀から指示を受け、関平が常に傍らで戦うことを条件に、戦場へ赴くことを許された。
逃げる民と共に守られていれば良いと、関平も承知の上で咲良を連れていくのだ。

遠呂智軍に襲われ、分断されてしまった民は複数の集団に分かれており、それぞれを織田軍の将が救援し、護衛についていた。
民の中には、女子供や老人も少なくはない。
年端もいかぬ幼子を抱えた女性は体力が続かないのだろう、足がもつれ、今にも転びそうなほどだった。
その民の歩みに足を合わせていれば、自然と進軍の速度も遅くなっていく。
光秀が先頭を、関平が後方を守っていた集団の中、咲良は民に混じってゆっくりと足を進めていた。
時折雨のように降ってくる矢を関平の刀が弾き返す度、怯える民は悲痛な声を漏らしている。


 

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